最新記事

ブランド

「後発だった」ナイキがスニーカー市場でトップになった理由

2017年11月3日(金)16時30分
東洋経済新報社出版局 ※東洋経済オンラインより転載

仕事に向き合うスピリットの原点がここにある

――野口さんたちも、靴にすべてを捧げたシュードッグだということですね。

いえいえ、私はまだまだシュードッグには程遠い。シューパピー(仔犬)くらいでしょうか(笑)。

この本で強く印象に残った言葉があります。「ビジネスという言葉には違和感がある。私たちにとってビジネスとは、カネを稼ぐことではない。単に生きるだけではなく、他人がより充実した人生を送る手助けをするのだ。もしそれをビジネスと呼ぶならば、私をビジネスマンと呼んでくれて結構だ」。

こんな趣旨の記述がありましたよね。これを読んで、フィル・ナイトの生活そのものがビジネスになっているのだと感じました。私は、人は誰しも純粋なビジネス欲を持っていると思っています。生きていくための本能の1つとして。金儲けがしたいとか、ビジネスを成功させたいという欲でなく、知的な刺激と発見への欲とでも言うべきものです。

日常生活でふと見つけるビジネスのヒントが楽しいと思ったことはありませんか? 私は街に出ると、つい人々の洋服や靴を見てしまう。ラーメン屋の行列を眺めながら、どんな人が、どんな服を着て、どんな靴を履いているかを見てしまう。電車の車内でもそうですね。街にはヒントがあふれているのです。いつの間にか、アンケート調査をしているようなものです。

私は週末には店頭に必ず立ち、接客をしています。というのも、売り上げはPOSデータでわかりますが、お客様がなぜその靴を買ったのか、あるいはなぜ買わなかったのかという理由まではわからないからです。直接接客をすると、どうしてそれを買っていただいたのか、あるいは買っていただけなかったのか、理由が見えてきます。店頭での接客は私が20年来続けていることで、私にとっての哲学の1つだともいえます。

臆病なプライドを持て

――若い読者に本書から汲み取ってほしいメッセージとは何でしょうか?

まさに「仕事に対するスピリットの原点、ここにあり」と思える本です。仕事って、どこかプライドがないとできない。でも、プライドが間違った方向にいくと、自分にとっても会社にとってもマイナスになってしまう。だからこそ、臆病さのあるプライドがビジネスでは重要だと私は思っています。本当にこれでいいのかという疑問を常にもつ臆病さ、それはどの業界であっても、どの職位であっても必要なことだと思います。

この本には、フィル・ナイトが経験した多くの葛藤が率直に描かれています。大きな問題に直面したとき、彼は迷いながら恐る恐る決断しています。そうしたビジネスの基本精神とでもいうものが、彼の心情を通して自然に入ってくる。すでに働いている人も、またこれから就職する若い人にとっても、とても有益な本ではないでしょうか。

――野口さんにとってスニーカーとはどんな存在ですか?

私にとって、スニーカーは音楽や書籍と同じ。その音楽を聴けば、あるいはその本を開けば、それを聴いていた、あるいは読んでいた時代がよみがえってくるように、過去に履いたスニーカーを見れば、当時の自分がよみがえるんです。だから、私は古いスニーカーも捨てられず、ずっと残しています。

きっと、スニーカーは洋服よりも同じ1足を身に着ける時間が長いから、そういう思いが強くなるのでしょう。スニーカーは単なる「靴」ではないのです。自分を形づくってきた大きな要素の1つです。そうした文化を創り出したのは、ナイキの大きな功績だと思います。

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
toyokeizai_logo200.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

香港トップが習主席と会談、民主派メディア創業者の判

ワールド

今年のシンガポール成長予想、4.1%に上方修正=中

ビジネス

対米巨額投資、日本の事業会社にリスク 収益性押し下

ワールド

USAID解体は「驚愕」、首席補佐官が米誌インタビ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 7
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中