最新記事

航空業界

疲弊する日系LCC各社は「運賃競争」から抜け出せるか

2017年10月6日(金)18時38分
中川雅博(東洋経済記者)※東洋経済オンラインより転載

航空機や座席で独自の工夫が難しいLCC。今後はサービスでの差別化がカギ(撮影:尾形文繁)

日本航空と豪カンタス航空の合弁LCC(格安航空会社)、ジェットスター・ジャパンの鈴木明典CFO(最高財務責任者)はため息交じりに語った。「国際線は競争激化で単価がかなり苦戦した」。

同社は9月14日、2017年6月期決算を発表。営業利益は原油高や競争激化で前期比19%減の11億円だった。前期に初めて黒字化にこぎ着けたが、利益を伸ばせずに終わった。

2012年にANAホールディングス(HD)傘下で関西国際空港を拠点とするピーチ・アビエーションを皮切りに、"日の丸LCC"が就航して5年。2017年の夏ダイヤでは国内・国際線を合わせて日本で運航されるLCC便数が全体の23%に達し、すっかり日本の空に定着した。

toyokeizai171006-2.png

台湾・香港路線で泥沼競争

同時に、国際線は各社の予想を超える競争環境となった。とりわけ泥沼化しているのが台湾と香港の路線。ジェットスターやANAHD傘下のバニラエアの拠点である成田を発着する台北(桃園)線は国内外10社、香港線は7社が運航する。供給過剰は否めない。

バニラは2015年度に初めて黒字化を達成したが、2016年度に再び赤字に転落。台湾路線の比率が大きいことが響いた。今4~6月期も赤字で、今年度は新路線就航を予定していない。

中国・春秋航空傘下の春秋航空日本も就航から3年が経過したが、40億円前後の赤字から抜け出せない。会社側は「事業計画が遅れているのは事実」とする。今後は中国を中心に国際線を拡大させるというが、収益への貢献度は未知数だ。

toyokeizai171006-3.jpg

成田空港を離陸する春秋航空日本の航空機(撮影:尾形文繁)

こうした状況を受け、ジェットスターは競合が少ない成田発着の国内線に比重を置く。同社は9月14日に成田─宮崎線の開設を発表した。

ただし、成田は周辺住民との取り決めで23時以降の離着陸ができない。稼働率を高めて利益を出すLCCにとってこの制限は厳しい。そのため、同社は来春には中部国際空港も拠点化し路線を増やす方針だ。

24時間空港である関空のメリットを享受してきたピーチも変革を迫られている。設立以来、増収増益で営業利益率は12%と断トツ。そんな同社も「アジア勢の投げ売りに影響を受けている」(井上慎一CEO)。今4~6月期はわずかながら減益となった。

客の囲い込みで安売り回避へ

単価下落に歯止めをかけるべく、井上氏は「ファンづくり」を強調する。個性的な機内食を出し自動車まで機内販売した同社だが、ビットコインによる航空券の購入など「ピーチに乗る価値をさらに高めていく」(井上氏)考えだ。

他社も顧客囲い込みを急ぐ。バニラは8月、購入金額に応じてポイントが貯まる会員制度を導入。ピーチやジェットスターも、割引や早期購入が可能な有料会員制度を展開する。

固定客をつかめば無理な安売りを避けられる。「次の5年」はサービス面の差別化がカギになりそうだ。

ANAホールディングスの会社概要は「四季報オンライン」で

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
toyokeizai_logo200.jpg

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ハワイ島の気象観測拠点が経費削減候補に、温暖化研究

ワールド

トランプ氏、テスラの新車購入へ 「マスクへの支持の

ワールド

米・ウクライナ高官、サウジで協議開始 対ロ戦終結の

ワールド

欧州の安保強化へ共通解決策を、フィンランド中銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 2
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手」を知ってネット爆笑
  • 3
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 4
    スイスで「駅弁」が完売! 欧州で日常になった日本食、…
  • 5
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望…
  • 6
    「中国の接触、米国の標的を避けたい」海運業界で「…
  • 7
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 8
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 9
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 10
    「汚すぎる」...アカデミー賞の会場で「噛んでいたガ…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題に...「まさに庶民のマーサ・スチュアート!」
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 6
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 7
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 8
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 9
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 10
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中