ドラッカーが遺した最も価値ある教え(前編)
顧客がなにを求めているかを知る
マーケティング上の問題に関しては、顧客がなにに価値を見いだしているかを徹底的に考えよ、というのがドラッカーの教えだった。顧客や潜在的顧客の視点ではなく、みずからの視点に立って判断することは、とくに避けるべきだ。このことは、よく肝に銘じておいたほうがいい。過去に市場で失敗した商品を見ると、この点で過ちを犯していたケースが非常に多い。天才と呼ばれる人たちでさえ、この過ちから逃れられないようだ。
若き日のスティーブ・ジョブズは、ほかのどの競合商品よりも技術的に優れているからという理由で、自社のパソコン「リサ」の成功を確信していた。リサは、メモリ保護機能、協調的マルチタスク機能、先進的なオペレーティングシステム、内蔵のスクリーンセーバー、高機能の電卓、最大二メガバイトのRAM、拡張スロット、テンキーパッド、データ破損保護の仕組み、大規模・高解像度のディスプレーなど、数々の画期的な機能を搭載していた。ほかのパソコンがこれらの機能を備えるのは、ずっと先のことだ。
しかし、ジョブズの予測ははずれた。これらの機能を盛り込んだ結果、リサはきわめて高額な商品になってしまった(現在の貨幣価値で約二万二〇〇〇ドル)。多くの消費者は、技術的に劣っても、ずっと安いIBMのパソコンを購入した。IBMのマシンなら、リサの三分の一に満たない値段で買えたのだ。当時の消費者は、技術的な優越性よりも価格の安さに価値を見いだしていたのである。
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