世界経済は「救命ボートもなく氷山に突き進む外洋客船」
日本銀行や欧州中央銀行(ECB)、FRB(米連邦準備理事会)など、世界の40以上の国の中央銀行が協調して行っている量的緩和は、船を沈まないようにするための措置と位置付けられるだろう。次に必要なのは、世界の国々が協調して、経済成長を促す措置を実行することだ。
まずは、世界最大の経済大国であるアメリカが先陣を切るべきだ。具体的には、法人税の大幅減税と巨額のインフラ投資を行う必要がある。アメリカ企業は高い税率と新しい規制に怯えるあまり、将来の成長に欠かせない設備投資を減らし、代わりに目先の株価を押し上げるだけの自社株買いに精を出しているのが現状だ。
「低成長危機」を乗り切るための債務は恐れるな
また、世界規模でインフラ整備と研究開発(R&D)に莫大な投資を行えば、世界経済の成長率を押し上げ、雇用を創出し、経済の見通しを今より明るいものにできるだろう。金融政策にも一定の効果はあるが、それだけでは経済のパイを十分に拡大できない。
もちろん、減税とインフラ投資を行えば政府債務は増える。しかし、それは必要な債務だ。長期停滞を抜け出す道は、ほかにない。いま世界経済が直面している問題の核心は、政府債務そのものではない。悪いタイプの債務を積み上げる一方で、金融政策によって危機を食い止めているにすぎないこと、それが本当の問題だ。
世界経済は、巨大氷山に向けて突き進むタイタニック号になる運命と決まったわけではない。船に修繕を加えれば、また以前のように、明るい水平線に向けて大海原を疾走する外洋客船になることができる。
船に積み込む債務という荷物は増えるが、その新しい債務は、世界経済を成長させ、漂流する船を立て直すために不可欠な燃料なのだ。
[2015年6月 9日号掲載]