最新記事

提言

世界経済は「救命ボートもなく氷山に突き進む外洋客船」

2015年6月8日(月)11時35分
アフシン・モラビ(本誌コラムニスト)

 日本銀行や欧州中央銀行(ECB)、FRB(米連邦準備理事会)など、世界の40以上の国の中央銀行が協調して行っている量的緩和は、船を沈まないようにするための措置と位置付けられるだろう。次に必要なのは、世界の国々が協調して、経済成長を促す措置を実行することだ。

 まずは、世界最大の経済大国であるアメリカが先陣を切るべきだ。具体的には、法人税の大幅減税と巨額のインフラ投資を行う必要がある。アメリカ企業は高い税率と新しい規制に怯えるあまり、将来の成長に欠かせない設備投資を減らし、代わりに目先の株価を押し上げるだけの自社株買いに精を出しているのが現状だ。

「低成長危機」を乗り切るための債務は恐れるな

 また、世界規模でインフラ整備と研究開発(R&D)に莫大な投資を行えば、世界経済の成長率を押し上げ、雇用を創出し、経済の見通しを今より明るいものにできるだろう。金融政策にも一定の効果はあるが、それだけでは経済のパイを十分に拡大できない。

 もちろん、減税とインフラ投資を行えば政府債務は増える。しかし、それは必要な債務だ。長期停滞を抜け出す道は、ほかにない。いま世界経済が直面している問題の核心は、政府債務そのものではない。悪いタイプの債務を積み上げる一方で、金融政策によって危機を食い止めているにすぎないこと、それが本当の問題だ。

 世界経済は、巨大氷山に向けて突き進むタイタニック号になる運命と決まったわけではない。船に修繕を加えれば、また以前のように、明るい水平線に向けて大海原を疾走する外洋客船になることができる。
船に積み込む債務という荷物は増えるが、その新しい債務は、世界経済を成長させ、漂流する船を立て直すために不可欠な燃料なのだ。

[2015年6月 9日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ガザ軍事作戦拡大 国連診療所などへの攻

ワールド

マスク氏、近く政権離脱か トランプ氏が側近に明かす

ビジネス

欧州のインフレ低下、米関税措置で妨げられず=仏中銀

ワールド

米NSC報道官、ウォルツ補佐官を擁護 公務でのGメ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中