石油を制す者は世界を制す
エネルギー界に迫る地殻変動
世界的に続く原油価格の下落は偶然か必然か。カギを握る「あの国」のシェール開発事情
価格低下の原動力 シェールの可能性は未知数(カリフォルニアの掘削現場) David McNew/Getty Images
ジョン・ロックフェラーは成功の秘訣を聞かれてこう答えた。「朝早く起きて、夜遅くまで働き、石油を掘り当てる」
1870年に米スタンダード石油(現エクソンモービル)を創業したロックフェラーは、まさに石油で世界一の富豪になった。石油は水と並んで現代人の生活に欠かせない商品となり、産油国や石油会社は今や世界有数の金持ちだ。
例えば、北海油田の収入の運用を行うノルウェーの政府系ファンド(SWF)は1兆ドル近い規模を誇る。サウジアラビアの手元資金も似たような規模だ。世界の主要なエネルギー企業は四半期ごとに数十億ドルの利益を計上している。
原油価格の変動がニュースをにぎわすのも当然だ。国際的な指標となるブレント原油価格は、6月の1バレル=110ドル台から先月中旬に80ドル台前半まで落ち込み、ここ1カ月は「25%下落」の見出しが躍っている。
原油価格の下落は周期的な現象なのか、それとも構造的な問題なのか。エネルギーの世界に地殻変動が起きているのだろうか。世界が大きく変わろうとしているのだろうか。
原油価格の下落について一般的な図式は、中国とヨーロッパで原油の需要が減少し、アメリカでシェールオイルの生産量が増加しているため、例によって供給過剰に陥り、価格の下落に追い打ちをかけているというものだ。
もう1つ重要な要因は、サウジアラビアが「価格の下支え」をしていないことだ。産油国として潤沢な埋蔵量と絶大な影響力を持つサウジアラビアは、意図的に減産して原油価格の下落を防ぐこともできるが、今回はそれをしていない。
この価格下落のメカニズムを踏まえて、エネルギーの世界の地殻変動を考えていこう。
現在、アメリカの産油量は過去30年で最大規模に達している。シェール革命で石油開発ブームが訪れ、今夏にはサウジアラビアとロシアを抜いて世界最大の産油国になった。
アメリカの消費者は世界経済の購買力を支える屋台骨であり、ガソリン価格にとても敏感だ。実際、シェール革命がガソリン小売価格の下落をもたらしている。
原油価格の下落は、世界経済にとってもうれしい材料となる。先月初めにIMF(国際通貨基金)のクリスティーヌ・ラガルド専務理事は、世界経済は「新たな低成長局面」に入りかねないと警告した。
これを回避する1つの方法は、原油価格を下げることだ。原油が安くなれば、食料品も電力もほぼすべての価格が下がる。世界経済の成長を敏感に反映し、原油の輸入に大きく依存している国は、原油価格の下落を歓迎するだろう。