銅の下落に世界の投資家が注目する訳
1ポンド当たり3ドルを下回った銅価格は、投資家に大恐慌並みの衝撃を与えている
先行指標 銅は目立たないが経済のあらゆるところに使われている Nicolas Vallejos Photography and Design-Flickr/Getty Images
銅の価格が下落している。そう言われても、多くの人は何の感想も浮かばないだろう。銅で連想するものと言えば1セント硬貨くらいのものだが、それすら厳密には正しいと言い切れない。82年以降の1セント硬貨は97.5%が亜鉛で、銅は表面メッキの2.5%しか使われてない。
だが経済の専門家は銅に熱い視線を送っている。彼らのブログは今や銅の話題でもちきりだ。1ポンド(約454グラム)当たり3ドルを下回った銅価格は、彼らに大恐慌並みの衝撃を与えている。11年にスタンダード&プアーズ(S&P)が米国債を格下げしたときや、08年のリーマン・ショック時の衝撃にも匹敵する。
リーマン・ショック級の危機が世界に迫っている──というのは、おそらく言い過ぎだ。それでも、経済の専門家たちが銅に注目するのにはそれなりの理由がある。
銅は、現代社会で生産されているほとんどの製品に使用される。少し例を挙げるだけでも発電、建築、配線、配管、空調、通信、電子回路基板、ベアリング、モーター、自由の女神像など枚挙にいとまがない。
そのため銅は、世界経済の動向と密接に関わっている。銅市場を見れば、グローバル経済の行く末が占えるというわけだ。
だが近頃の銅の下落は、経済学者や市場のプロにとっても不可解な部分がある。下落の原因としてよく挙げられるのは、3月に中国経済に関する悪いニュースが相次いだこと。世界最大の銅の消費国で需要が弱まったことで、多くの在庫が倉庫に眠っているというのだ。
金融取引の「道具」だった
一方で、銅市場は以前から典型的なバブル状態にあったとする声もある。中国の投資家はゼロ金利下にある米ドルを借り入れて銅を輸入し、その銅を売却して得た人民元を高金利で運用。金利差で儲けてドルの借金を返済する、という投機的な取引を多く行ってきた。
つまり銅は実需に基づいて輸入されるのではなく、金融取引の「道具」に使われただけ。そうした銅は製品に使われず、倉庫に保管されているだけの状態になる(その結果、銅は供給不足になり、価格は急騰した)。