飛べない787にまた難題
だが85年にはFAAも譲歩し、緊急着陸用の空港までの時間を従来の60分から120分に倍増させた。「双発機の拡大範囲運行」の頭文字を取った「ETOPS」体制の始まりだ。
ボーイングの767型双発機はこの新体制の下で初めて大西洋横断を許された。そして3年後までには、空港までの距離が180分の範囲の航路を飛べる認定を獲得した。
それでも、ボーイングの要求はとどまるところを知らなかった。同社は当時最大の777型双発機を造り、太平洋のいくつかの航路を飛ぶために空港まで207分の認定を求め、2000年に認められた。
777型機の安全記録は群を抜いていた。世界で1500機近くが就航したが、死者は1人も出していない。
それどころか、乗客を恐怖に陥れる芸当もやってのけた。03年8月、ニュージーランド発ロサンゼルス行きのユナイテッド航空の777型機のエンジン1機が洋上で故障し、急きょハワイ島西部のコナに向かった。逆風を押して192分後、無事空港にたどり着いた。ETOPS史上、最長の目的地外着陸だ。
だがこれは、伝統的な設計の777型機の話。787型機ドリームライナーは、伝統的なジェット機の設計を覆し、飛躍的な進化を意図した航空機だ。
空の旅はかつてなく安全
ボーイングが言うように、より「電気航空機」に近いというのも進化の1つだ。電気で飛行機を飛ばすには、400世帯分の電気を起こす発電システムが要る。その中核部品の1つがリチウムイオン電池。この電池を飛行機に載せるのは、ボーイングにとっても初めての経験だ。
それにもかかわらずボーイングは、ETOPSで330分の認定を性急に欲しがった。現在認定を受けている180分からは大きな飛躍であり、その180分を獲得するのでさえ777型機は200万回のフライトと16年を要したのだ。
ボーイングの広報担当者マーク・バーテルは本誌に対し、適切なバッテリーとシステムと安全装置があれば、リチウムイオン電池は大きな恩恵をもたらすと語った。バッテリー火災後の調査でも、その確信を覆す発見はなく、「ETOPSの330分を目指す方針に変わりはない」と言う。
ボーイング幹部は、航行支援システムなど技術の漸進的進歩のおかげで、飛行機はかつてなく安全なものになっているという驚くべき証拠を突き付けることもできただろう。
例えば昨年の国際線の事故件数は11件で、1945年以来で最低になった。1日3万便が空を飛んでいるにもかかわらずだ。死亡事故はもう4年間、起きていない。航空機の設計上の事故原因は、ほぼ排除されたかのようだ。
実際、昨年11月の時点で、ANAは787型機を1年間飛ばし、乗客200万人を大きなトラブルもなく安全に運び、大いに満足していた。ボーイングの説明によれば、テスト飛行も含めて全130万時間の飛行を行っても、リチウムイオン電池に何一つ深刻な問題はなかったという。