最新記事

テクノロジー

マイクロソフトのタブレット大革命

満を持してモバイル市場に投入した「サーフェス」。マイクロソフトが自らOSもハードも作るアップルモデルに転じた意味

2012年8月1日(水)18時01分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

不屈の精神 マイクロソフトらしからぬ(?)クールなデザインの「サーフェス」 David McNew-Reuters

 マイクロソフトが先週、タブレット型端末「サーフェス」を発表した。iPadよりやや大きい10・6インチの画面に重さ約680グラム、画面カバーがキーボードも兼ねる作りになっている。マグネシウム製のハードケースも含めてデザインはクール。これでiPadはもう時代遅れになった、と書いた業界ブロガーもいる。

 だがそんなことは大して重要ではない。大事なのは、マイクロソフト、ひいては業界全体にとって、サーフェス登場は1つの時代の終わりを告げるという事実だ。

 サーフェスはデルやヒューレット・パッカードなどのパソコンメーカーではなく、マイクロソフト自身によって作られた。これはマイクロソフトが、OSとハードウエアの両方を開発するアップルのビジネスモデルを採用し始めたという意味だ。

 業界で起きている大きな変化を反映した動きともいえるだろう。業界は「ポストPC時代」を迎えている。スマートフォンやタブレットなどモバイル時代の到来であり、こうした機器に対応する新しいビジネスモデルが求められる時代だ。

 ポストPC時代は、1社でソフトからハードまですべてのソリューションを提供する時代でもある。アップルもグーグルもマイクロソフトも、ハードウエアからOS、ストレージ用のクラウドサービスまですべてを取りそろえる。

見捨てられたパソコンメーカー

 これまでソフトウエアに専念してきたマイクロソフトがハードウエア業に手を出すことを、快く思わないパソコンメーカーは少なくないはずだ。マイクロソフトはウィンドウズOSを提供しながら共に歩んできたパソコンメーカーを見捨てようとしている。さらに厳しい現実を言えば、こうしたメーカーの多くは衰退する運命にある。

 この競争の激しいモバイル時代を、独自のOSを作らないハードウエアメーカーが生き抜いていくのは至難の業。向こう5〜10年で、自社でOSを作らない携帯電話やパソコンメーカーは業界から姿を消すだろう。

 スマートフォンやタブレット市場に加えて、前述の3社がしのぎを削ろうとしているのが、テレビ市場だ。アップルはアップルTVでそれなりの成果を出したが、グーグルは中途半端なグーグルTVで大失敗した。

 テレビ市場で先頭を走っているのは、マイクロソフトだ。ゲーム機器として人気を得たXbox360は今や、テレビから音楽、映画やスポーツまで楽しめるホームエンターテインメント機器に進化している。近年アップルやグーグルに押され気味だったマイクロソフトが輝きを取り戻しつつあるのか。その答えは、クールなサーフェスが出してくれるかもしれない。

 あんなにイケてなかったマイクロソフトからこんな製品が誕生するなんて誰が予想しただろう。そもそもマイクロソフトにデザイナーがいたことを誰が知っていただろう。

 だがそんな相手にされていなかったデザイナーたちが最近、素晴らしい作品を次々と世に送り出している。アークタッチマウス、ウィンドウズ8の新ユーザーインターフェース「メトロ」を見ればいい。

 私は記者としてマイクロソフトを25年間見てきた。この会社の人間はとても優秀で変化にもうまく適応できることを知っている。競争力があり不屈の精神も持っている。失敗を繰り返しても決して諦めない会社だ。

 ここ数年、私も含め多くの人間がマイクロソフトを軽視してきた。だが、それは大きな間違いだったのかもしれない。

[2012年7月 4日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中