Huluのサービス大放出は限界
テレビ業界はHuluを、00年代初めに音楽業界を食い荒らしたオンラインの海賊行為に対する防波堤と考えているらしい。実際、音楽コンテンツ交換ソフトのナップスターのような競争相手はうまくかわした。
Huluの登場以来、私は違法ダウンロードされた映像を見る気がしなくなった。同じ考えの人も多いようだ。2900万人がHuluの無料サービスを利用しており、その数は増え続けている。
成長に助けられ、Huluはインターネット広告の売り上げでもトップに躍り出た。昨年は4億2000万ドルの売り上げを記録した。CBSのようにHuluに参加しない系列局は自社サイトにHuluをまねたモデルを作った。
一方、テレビ広告は700億ドル規模の巨大な市場だ。Huluの大型株主はそのシェアを守りたい。それが認証制度を支持する動きにつながっている。
例えばNBCが行う予定のロンドン五輪のストリーミング放送を見るには、ケーブルか衛星放送の会員番号で「NBCオリンピックス」というサイトにログインする必要がある。
サービスの加減が難しい
オリンピックの放映権に44億ドルを払ったNBCは無料で見せる気などない。オリンピックのライブ映像の違法配信が出回る心配はないから、金を払わない視聴者を心置きなく締め出そう、というわけだ。
Huluは難しい状況に追い込まれている。ケーブルや衛星の有料サービスのようにすべてのユーザーに認証を要求すれば、ユーザーの数も広告収入も減る。『Glee』の配信が8日間遅れただけで、違法コピーが急増したと伝えられたほどだ。無料視聴者を締め出せば、間違いなくHulu離れが起こる。
Huluが今のような気前のいいサービスを続けられないことは確かだ。しかし、サービスが悪くなり過ぎても困る。
Huluが適度に配信を遅らせたり有料化を進めたりすれば、ケーブルテレビの会員も解約しようとは思わないだろう。だがHuluが行き過ぎたサービスの改悪を行えば、ユーザーは良心の呵責を押し殺し、ファイル共有ソフト「ビットトレント」のお世話になるかもしれない(私なら単にテレビを見る時間を減らす)。
それに、Huluが無料ユーザーから利益を得ていないと思うのは間違いだ。私の場合、ほかのどんなサイトよりもHuluの広告をよく見ている。
Huluは認証制度導入の噂について、態度を明らかにしていない。社内で対立が深まっている可能性もある。あるいは、コンテンツを提供する協力会社との交渉が紛糾している可能性もある(ベライゾンやディッシュ・ネットワークなど数社は放送翌日の視聴にも既に認証制度を導入させている)。
だとすれば、この対立はHuluの存在意義だけでなく、テレビ業界全体の未来を左右するものだ。ユーザーにとっておいし過ぎるサービスを続けていれば存続できないし、サービスを落とし過ぎてもユーザーは離れていく。
ナップスター化して無料でコンテンツを提供するわけにもいかないし、株主や協力会社の利益をなくすわけにもいかない。Huluはその2つの道の中間で難しい舵取りを迫られる。
© 2012, Slate
[2012年6月13日号掲載]