最新記事

メディア

マードック帝国を揺るがすハッキング疑惑

2012年3月30日(金)14時56分
マイク・ギグリオ(ロンドン)

 リーズをめぐっては、87年にリーズの元相棒のダニエル・モーガンがおので殺害される事件が起きている。モーガンは警官の腐敗を暴こうとして殺された疑いがあり、この事件が迷宮入りになったことは物議を醸した。

 この事件の捜査で、警察はリーズのオフィスに盗聴器を仕掛けた。モーガン殺害に関する手掛かりはつかめなかったが、リーズが警官に賄賂を渡して情報を収集している事実が発覚した。

 モーガン殺害については、昨年リーズの無罪が確定。リーズは違法に入手した情報を売ったり提供したこともないと主張している。しかし彼は、別れた妻から子供の親権を奪いたいという男性の依頼で、その妻をコカイン所持者に仕立てた罪で7年間服役した。

 04年に出所した後は、もっぱらニューズ紙の依頼で危ない仕事をしてきた。当時の編集長はアンディー・コウルソン。その後、コウルソンはデービッド・キャメロン首相の広報担当となったが、電話盗聴疑惑で辞任に追い込まれている。

 リーズの会社と頻繁に接触していた覆面捜査官が昨年BBCに語ったところでは、同社はコンピューター侵入などの違法手段で入手した情報を日常的にメディアに提供していたらしい。

警察との癒着の疑いも

「彼らは女王のカルテだって入手できると豪語していた」と、この覆面捜査官は言う。「(英メディアでは)違法な情報収集とは無縁の記事は全体のごくわずか、1%くらいなものだろう」(リーズ自身は違法な情報入手を否認している)。

 元諜報機関員のハーストは昨年11月、電話盗聴事件の真相究明に当たるレベソン調査委員会の証人喚問で、スミスはメールを盗み見たばかりか、カードの暗証番号や妻の履歴書まで盗み出したと証言した。「06年6月半ば頃から3カ月間、情報を盗んでいたと言っていた。メール、ハードディスク、ソーシャルメディアなど、トロイの木馬で盗めるものはすべて盗んだ」

 ハーストはまた「タブロイド紙や私立探偵が送り込むトロイの木馬はそれほど高度なウイルスではない」とも証言している。

 ハーストの怒りは警察にも向けられている。侵入に気付きながら、自分に警告してくれなかったという。「臭いものにはふたで済まされていたようだ。一部の新聞と首都警察(MPS)の現役・退職警官がグルになっていたことは疑う余地がない」

 MPSはこの件についてコメントを拒みながらも、警官の収賄とコンピューター侵入疑惑について捜査に乗り出した。

「(MPSは)スミスとその活動を熟知していたのに......目をつぶっていた。なぜだ」と、ハーストは言う。どうやら闇は深い。レベソン委員会も今後、報道機関と警察の癒着の解明に全力を挙げるという。

[2012年3月 7日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中