マードック帝国を揺るがすハッキング疑惑
リーズをめぐっては、87年にリーズの元相棒のダニエル・モーガンがおので殺害される事件が起きている。モーガンは警官の腐敗を暴こうとして殺された疑いがあり、この事件が迷宮入りになったことは物議を醸した。
この事件の捜査で、警察はリーズのオフィスに盗聴器を仕掛けた。モーガン殺害に関する手掛かりはつかめなかったが、リーズが警官に賄賂を渡して情報を収集している事実が発覚した。
モーガン殺害については、昨年リーズの無罪が確定。リーズは違法に入手した情報を売ったり提供したこともないと主張している。しかし彼は、別れた妻から子供の親権を奪いたいという男性の依頼で、その妻をコカイン所持者に仕立てた罪で7年間服役した。
04年に出所した後は、もっぱらニューズ紙の依頼で危ない仕事をしてきた。当時の編集長はアンディー・コウルソン。その後、コウルソンはデービッド・キャメロン首相の広報担当となったが、電話盗聴疑惑で辞任に追い込まれている。
リーズの会社と頻繁に接触していた覆面捜査官が昨年BBCに語ったところでは、同社はコンピューター侵入などの違法手段で入手した情報を日常的にメディアに提供していたらしい。
警察との癒着の疑いも
「彼らは女王のカルテだって入手できると豪語していた」と、この覆面捜査官は言う。「(英メディアでは)違法な情報収集とは無縁の記事は全体のごくわずか、1%くらいなものだろう」(リーズ自身は違法な情報入手を否認している)。
元諜報機関員のハーストは昨年11月、電話盗聴事件の真相究明に当たるレベソン調査委員会の証人喚問で、スミスはメールを盗み見たばかりか、カードの暗証番号や妻の履歴書まで盗み出したと証言した。「06年6月半ば頃から3カ月間、情報を盗んでいたと言っていた。メール、ハードディスク、ソーシャルメディアなど、トロイの木馬で盗めるものはすべて盗んだ」
ハーストはまた「タブロイド紙や私立探偵が送り込むトロイの木馬はそれほど高度なウイルスではない」とも証言している。
ハーストの怒りは警察にも向けられている。侵入に気付きながら、自分に警告してくれなかったという。「臭いものにはふたで済まされていたようだ。一部の新聞と首都警察(MPS)の現役・退職警官がグルになっていたことは疑う余地がない」
MPSはこの件についてコメントを拒みながらも、警官の収賄とコンピューター侵入疑惑について捜査に乗り出した。
「(MPSは)スミスとその活動を熟知していたのに......目をつぶっていた。なぜだ」と、ハーストは言う。どうやら闇は深い。レベソン委員会も今後、報道機関と警察の癒着の解明に全力を挙げるという。
[2012年3月 7日号掲載]