最新記事

中国経済

欧州債務危機を支援する中国の皮算用

金融支援の見返りに中国が早期承認を求めた「市場経済国」待遇とは

2011年9月20日(火)18時17分
キャスリーン・マクラフリン

交換条件 欧州諸国に「誠意」を求めた温家宝首相(9月14日、大連 Jason Lee-Reuters

 中国がまたしても、世界的に広がる債務危機から漁夫の利を得ようとしている。巨額債務をかかえる欧州諸国が資金難に苦しむなか、ふんだんな手持ち資金を武器に、欧州への影響力拡大を目論んでいるのだ。

 推定3兆2000億ドルという世界最大の外貨保有国である中国は今や、世界経済の駆け込み寺のような存在だ。今のところ、中国による欧州諸国の国債保有額は低く抑えられているが、当局は先日、EU(欧州連合)の中国政策が変われば国債の買い増しもありえると示唆。WTO(世界貿易機関)の規定では、中国は2016年に「市場経済国」として承認されることになっているが、中国はEUに承認時期の前倒しを求めている。

 温家宝首相は先週、大連で行われた夏季ダボス会議で演説し、対中政策について「大胆な措置」を取るようEUに呼びかけた。「中国を完全な市場経済国と認めることは、友人が友人を認める1つの方法である」

 国営新華社通信は、さらに踏み込んだ主張をしている。「世界的な経済危機とヨーロッパの債務危機の勃発以来、中国はヨーロッパを支えてきた。例えば2009年には、欧州経済を活気づけるために多くの代表団をヨーロッパに送り込み、膨大な数の商品やサービスを買い込んだ」

「中国は昨年来、深刻な債務危機に陥った国々を救うために、多くの欧州諸国の債券を購入してきた。なのに、中国の市場経済国承認問題について、EU側がいまだに誠意を示さないのは遺憾だ」

ダンピング調査での不利益を解消したい

 首都経済貿易大学(北京)の経済学者、趙忠秀によれば、中国が市場経済国の地位にこだわるのは、貿易交渉における不利益を解消したいためだ。

 中国側に言わせれば、市場経済国待遇を受けられないために、中国製品は反ダンピング調査の際に不利な条件で審査され、不当なダンピング課税を強いられている。「市場経済国に承認されれば、そうした問題はなくなる」と、趙は言う。

 一方、アメリカやEUにしてみれば、中国はまだ承認の条件を満たしていない。実際、経済危機の前後に中国が行った巨額の消費刺激策によって、承認が一段と遠のいたと考える向きも多い。

 EUのジョン・クランシー広報官(通商問題担当)は、市場経済国への移行は「ルールに基づいたプロセス」だとメールで表明した。「市場経済国の承認に関するテクニカルな基準は明確だ。政治的な事情に合わせて決定される事柄ではない」

「欧州委員会のアセスメントによれば、中国の状況は改善しつつある。大半の法律が整備されているが、その施行はこれからだ。つまり、市場経済国承認のタイミングはほぼ中国に委ねられている」
 
GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

COP29、会期延長 途上国支援案で合意できず

ワールド

米、NYマンハッタンの「渋滞税」承認 1月5日から

ワールド

トランプ氏、農務長官にロフラー氏起用の見通し 陣営

ワールド

ロシア新型中距離弾、実戦下での試験継続 即時使用可
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中