インドネシアは第2のシリコンバレー
iPadのようなタブレット型パソコンが市場に導入されるにつれて、デジタルコンテンツの需要は急速に高まっていった。電話会社はデータサービスに投資を続け、一方でジャルムやサンポエルナなどインドネシアで急成長を遂げた大手たばこ会社までもがITベンチャーに資金提供している。
インドネシアのIT企業は投資家の関心の高まりを十分承知しているし、ベンチャー企業は国中いたるところで誕生している。とりわけ首都ジャカルタではそれが顕著だ。
スートメディアもそんな会社の1つ。09年に会社を興し、今では17人のスタッフを抱えてサムスンのような大手企業に協力している。スートメディアは今、iPad用の新たなアプリを開発中だ。フィンランドのベンチャーが開発し、爆発的にヒットしたゲーム「アングリーバード」のような人気アプリになることを期待している。
「詳細は言えないが少しだけ明かすと、ターゲットは子供で教育的なものだ」と、スートメディアの共同創設者ファジリン・ラシドは言う。「良いアプリを作れば大金を稼げる。アップルはアプリの収益の30%を支払ってくれるし、膨大な数のiPadとiPhoneユーザーがその収益を吊り上げてくれる」と彼は言う。
それでも、インドネシアが次のシリコンバレーとなり、中国やインドと競えるようになるためには、50年代のシリコンバレーのように環境を整えなければならない。質の高い大学、豊富な投資資金、そしてリスクと革新を求める姿勢が必要だ。
インドネシアには他にも障害がある。多くのベンチャー企業にとってネックになっていたのが、オンラインの支払いシステムの選択肢が乏しいこと。インドネシア人でクレジットカードを持つ人は少なく、とりわけネットショッピングをする確率の高い若年層が所有していない場合が多い。オンライン決済サービスのペイパルは、アメリカドルしか扱っていない。ドク・ドットコムが開発したペイパル同様の決済システムは、5月半ばに始まったばかりだ。
過大評価されていないか
最大のリスクは、ベンチャー資金が大量流入することで、99〜00年に起こったようなバブルが生まれる可能性があることだろう。当時はIT企業であれば何であれ投機的投資の対象となり、その結果大暴落を引き起こした。
「投資家はベンチャー企業の評価を低めに見積もっておこうとする。だがベンチャー企業はその逆を望む」と、デーリー・ソーシャル・コムのマムアヤは言う。「常軌を逸した企業評価があふれている。適正なビジネスプランもないベンチャー企業が何百万、何千万ドルもの評価額を設定する、という具合だ」
だがイーストベンチャーズの衛藤は心配していない。インドネシアには投資にふさわしいだけの十分な市場があり、しかも世界のほかの市場に比べれば投資規模はまだはるかに小さいと、彼は言う。
「日本を例にとれば、GDPはインドネシアの10倍だ。日本で最大規模のインターネット取引サイトといえば楽天だが、その株式時価総額は120億ドル。この計算でいくと、インドネシア最大のインターネット取引サイトは10億ドル規模の企業になる可能性を秘めているといえる」
マムアヤは、インドネシアの強みは革新を求める精神にあると言う。「シリコンバレーを特徴付けているのは、まさにこの革新だ。インドネシアには次のシリコンバレーになるための材料がすべてそろっている。時間はかかるだろうがね」