スイスが教える危機克服の秘訣
金融危機直後は国家破綻したアイスランドと同じ危機的状況だった小国が、通貨・銀行とも世界最強に返り咲けたのはなぜか
スイスは、世界でも最悪の部類の金融破綻を経験するところだった。そのスイスが今では金融規制の手本になっている。
08年の世界金融危機当時、スイスは特に懸念材料を抱えていた。クレディ・スイスとUBSといった大手を筆頭に、金融界の資産総額はGDP(国内総生産)の何と680%に達していた(米商業銀行の総資産はGDPの70%だった)。そのうち有害な不良資産がどのくらいあるのか、誰一人として把握していなかった。
その一方で、これらの金融機関はあまりにも大き過ぎて、本格的な金融危機になれば小国スイスには救済し切れない、と誰もが確信していた。資本逃避が起きれば、スイスの通貨と経済はひとたまりもないと思われた。
当時の状況は、アイスランドに怖いほど似ていた。スイス同様、独自の通貨と桁外れに大きいグローバル金融機関を有する小国だ。アイスランドは大手銀行の破綻を受けて深刻な景気後退に陥っており、IMF(国際通貨基金)からの財政支援に頼り切っている。
しかしスイスは今、世界中に吹き荒れる嵐の中で盤石の地位を築いている。スイスフランは世界最強の準備通貨の1つで、クレディ・スイスもUBSも世界の大手銀行で有数の自己資本比率の高さを誇る。大量の外国資本がスイスに流入し、金融機関にも資本が戻ってきている。
アメリカの状況とは雲泥の差だ。FRB(米連邦準備理事会)はいまだに、不振に陥っている金融部門に資金を注入しているが、回復の兆しはほとんど見えない。やはり世界金融危機で大打撃を受けたドイツでも、政治家が得体の知れない投機家と戦い、公表されていなかった不良資産による損失が毎月のように明らかになっている。スイスはユーロ導入国の多くとも違って、債務不履行が懸念されたことは一度もなかった。
より早く、より厳しく
スイスはどんな正しい対策を講じたのか。1つには、スイスの規制当局と中央銀行がほとんどの国より迅速かつ断固とした措置を取ったことが挙げられる。
08年9月にリーマン・ショックという嵐がやって来る前から、スイスはUBSの不良資産対策を懸命に練っていた。GDPの4倍を超える総資産を持つUBSは、スイスの金融機関で一番の問題児だった。リーマン・ショックが起きると、スイスの中央銀行は直ちにUBSの不良資産の一部を買い取るとともに資本注入を行った。他の欧米各国が土壇場まで救済を先送りにして、多くの問題を長引かせたのとは対照的だ。
もう1つは、金融機関の規制強化は将来の危機や資金投入から納税者を保護するだけでなく、結局は金融ビジネスにとってもプラスになると、政府が早くから判断していたことだ。世界金融システムへの信頼がゆっくりと回復するなかで、スイスの金融機関はより厳格な(従ってより健全な)ルールを守るべきだという認識は、最も重要な顧客──スイスの金融機関に財産管理を任せる世界の富豪──の信頼獲得に役立つ。