かつてウォークマンは革命だった
ユーザーの選択革命がiPodにつながった
ウォークマン以前にも、携帯型の音楽プレーヤーがなかったわけではない。だが、イヤフォンつきのトランジスタラジオで聞けるのはDJの選んだ曲だけ。ラジカセを持ち運ぶことも可能だったが、周囲の人すべてに否応なく聞こえてしまうのが難点だった。その点、ポケットに入るほど小さくて軽いウォークマンなら、他人に気兼ねすることなく自分が聞きたい曲だけを聞ける。
ウォークマンを機に、各自が欲しいコンテンツを欲しいときに入手するポップカルチャーの時代が幕を開けた。その後、50チャンネルのケーブルテレビ(すぐに500チャンネルに増えた)や、好みの番組を自動的に録画するデジタルビデオレコーダー「ティーボ」、オンラインDVDレンタルのネットフリックスなど好みのコンテンツを自由に選ぶための技術が続々と開発された。
「ユーザーの選択革命」とも称されるこうした商品の市場は、新製品が出るたびに広がり、深化してきた。79~99年の20年間のウォークマンの販売台数は1億台。一方、2001年以降の9年間ではアップルのiPodが2億7700万台売れている。
ウォークマンが登場した30年前を知らない若者世代は、当時の人々が感じた不思議さをイメージしにくいかもしれない。1981年にマネー誌に掲載された友人への手紙形式の記事を見てみよう。
「先月ニューヨークに来たとき、小さな箱につながれたヘッドフォンを装着して、虚ろな目で歩き回る変人を見ただろう? 君が帰った後、周囲に尋ねてみたら、彼らはカルト集団の信者じゃないそうだ。あの小さな箱は携帯型のカセットテープ再生機だ。自宅にいなくても音楽を聞ける時代になったらしい」
21世紀を生きる人の大半にとっては、私のように自宅でステレオを聞く人間のほうが「虚ろな目をした変人」に思えるのだろうが。