最新記事

電子ブック

キンドルで売れまくる「電子エロ本」の落とし穴

電子書籍端末で読める格安ポルノ小説がアマゾンの評判を貶めかねない

2010年10月5日(火)17時56分
ジェームズ・レドベター

隠れたベストセラー キンドルで最多のダウンロード数を誇る『ショッキングな体位』はセックスを取り入れたヨガにはまる男の物語

 アマゾン・ドットコムの電子書籍端末「キンドル」で最も多くダウンロードされているコンテンツは、ジェナ・ベイリー・バークの小説『ショッキングな体位』。ストーリーはこんな感じだ。

 主人公のデービッド・ストロングは多彩な男で、国際的なフィットネス企業を経営し、株式投資を成功させ、女性とも後腐れなく付き合っている。そんなとき、ソフィー・デルフィノと出会い、刺激的なセックスを組み入れたトレーニングを体験。ストロングは、デルフィノが主宰するカップル向けヨガ教室で、古代インドの性愛の教典「カーマ・スートラ」の体位をデモンストレーションする羽目になる。しかも、デルフィノはストロングがどこまで自制できるか極限まで試そうとする。

 小説にはこんな文章も添えられている。「警告──カーマスートラは淡白な人や気弱な人向けではありません。この小説も同様です」

無料配布で3万5000人がダウンロード

 ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーリストにこの作品がランクインすることはないのに、なぜキンドルで1位になれたのか。理由は価格だ。アマゾン・ドットコムでペーパーバックを購入すると、10ドル20セントと配送費がかかる。キンドルなら無料で読めるうえに、配送の時間もかからない。

『ショッキングな体位』を出版したサムハイン・ブックスのクリスティナ・ブラシャー社長によると、同社では通常、シリーズものの第1巻を2週間、無料で配布する。読者の一部が2巻目以降を有料で購入してくれると見込んでいるからだ。8月に無料配布した『青いジーンズの女神』の実績から判断すれば、『ショッキングな体位』は無料配布期間に3万5000人ほどがダウンロードしたとみられる。

 出版業界も含む世間に『ショッキングな体位』がポルノ小説扱いされることはないだろう。あからさまな性描写は女性向けのロマンス小説には昔から付き物。深い愛の物語の一部としてであれば、読者も歓迎してきた。つまり、『ショッキングな体位』の成功は、昔ながらのジャンルに最新テクノロジーの後押しが加わっただけのものともいえる。

 とはいえ、キンドルのラインナップを見ていると、男性をターゲットにしたアダルト小説が多いことに気付く。例えば『オフィスの奴隷』という作品では、会社のカネを着服した魅力的な女性CFO(最高財務責任者)が、刑務所送りになる代わりに会社の性奴隷になれという上司の要求を聞き入れる。

 上司は彼女にオフィスでスケスケの服や裸同然の格好を強いたり、セックスの様子をビデオ撮影したり、言いつけを守らない彼女を叩くよう男性社員に指示したりする。そして、工場の作業員(生産性向上の報酬として)や見込み顧客(新契約を確実に取るため)、オフィスにランチを配達する10代の少年などあらゆる男とセックスさせる。しかも、どれほど肉体的に虐待されても精神的に辱められても、彼女はその状態を楽しんでいる。

 この手の話に心引かれる女性読者は少ないだろうが、そんなことは問題ではない。アマゾンがターゲットにしているのは男性。キンドルでの特売価格(『オフィスの奴隷』を含む多くの作品が無料だ)のおかげで、「ベストセラー」の仲間入りも夢ではない。

アダルトコンテンツは成長の起爆剤

 でも、これってポルノじゃないの? この本を読んでいることを母親に話せるなら問題ない。

 ポルノかどうかを判断するもう一つの指標は映像だ。性描写を含む小説であっても、ポルノ的でない写真や映像に置き換えられるものは数多くある。だが、18世紀のフランス人作家マルキ・ド・サドの『ソドム百二十日』や今回の『オフィスの奴隷』を忠実に映像化すれば、純粋なポルノシーンは避けられない。しかも、キンドルでは近親相姦やレイプ、獣姦をテーマにした小説も5ドル以下で買える。これはポルノだと誰もが同意するのは、時間の問題だ。

 ポルノと電子書籍端末の組み合わせは、まだ新しい。デジタル版のエロ本の多くは、過去1年半の間にキンドルのラインナップに加わったばかりだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中