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出版もう出版社なんかいらない?
出版社に持ち込んで紙の本にしてもらうよりオンラインで自費出版のほうが売れる可能性は高い
ボイド・モリソンが最初の小説を書いたのは、産業工学の博士課程を終える直前のこと。5つの出版エージェントに原稿を持ち込んだが、すべて断られた。
12年後、モリソンは再び挑戦し、ようやくエージェントに拾われた。3年近い年月をかけ、3本の小説を書き上げた末に認められたのだ。それでも、彼の小説『箱舟』は25の出版社からことごとく断られてしまった。
開き直ったモリソンは、09年3月に『箱舟』を含む未発表の3作をアマゾンの電子書籍専門オンラインストア「キンドル・ストア」にアップロードした。
するとどうだ。3カ月もたたないうちに月4000冊のペースで売れるようになった。そしてこの数字が、彼の小説の出版を断った出版社の注目を集めた。
『箱舟』は今年5月に大手のサイモン&シュスター社からハードカバーで発行され、キンドルの自費出版本が大手出版社から出た初めての例となった。エージェントから、自分の作品がついに紙の本になると聞かされたときが「人生で最も素晴らしい瞬間の1つだった」と、モリソンは言う。
コーヒー1杯の値段で
高級ファッション誌ヴォーグの編集長が婦人服の安売りチェーン店を見下すのと同じように、書評家や書店などは最近まで、自費出版の作家たちを見下してきた。しかし今では、新人作家も有名作家も一様に自らの手で出版を行うケースが増えつつあり、従来の出版社や出版関係者も、その傾向を無視できなくなっている。
書誌情報サービス会社のバウカーが発表した最新の報告によると、アメリカの「非伝統的な形態の書籍」市場で09年に発行された新著は75万点以上。08年比で181%も増加している。アマゾンの場合、キンドル・ストアの売り上げは今やハードカバー書籍の売り上げを上回る。しかもキンドル・ストアのベストセラー上位100冊のうち、5冊は自費出版ものだ。
オンデマンド出版サービス会社ルル・ドットコムのボブ・ヤングCEO(最高経営責任者)は、書籍のオンライン出版・流通は昔からある書籍産業が形態を変えたものではなく、まったく新しい産業だと指摘する。
ヤングは、ルル・ドットコムをオークションサイトのeベイになぞらえる。eベイが誕生したとき、多くの人々は伝統的なオークション事業への脅威になるだろうと受け止めた。
「eベイの誕生から10年、落札件数は600億に上るが」とヤングは言う。「それでもクリスティーズやサザビーズは安泰だ。eベイを使う人は多いけれど、そこにピカソの作品が出ることはないからだ。同じことで、ルル・ドットコムで売りまくっているのもジョン・グリシャムのような有名作家ではない」
実際、グリシャムはまだ同サイトを利用していないようだ。しかし、著名な作家のジョン・エドガー・ワイドマンは利用している。ワイドマンは今年の春、最新の短編集を同サイト上で発表した。
従来のペーパーバック版の出版契約では、著者が手にする印税はわずか8〜9%だ。しかし大部分の自費出版契約の場合、著者には販売利益の70〜80%が入る。残りは流通業者の取り分だ。「初めて公平な市場が登場した」と、ミステリー作家のJ・A・コンラスは言う。「市場はそもそも読者が管理すべきだった。それがようやく実現した」
コンラスは今後発表する小説をすべてキンドルで自費出版する予定だ。彼は09年4月に電子書籍の自費出版を始めたが、中間業者を省くことで、2・99ドルの電子書籍1冊で25ドルのハードカバー1冊と同等な利益を得られることに気付いた。「電子書籍の稼ぎで、住宅ローンも生活費も支払えるようになった。今年の売り上げは10万㌦を超えるだろう。大部分はニューヨークの出版社に断られた本の売り上げだ」
自分の本がよく売れるのは、掲示板に載るユーザーによる評価やレビュー、それに電子書籍の単価が安いおかげだと、コンラスは考えている。「3ドルといえば、コーヒー1杯の値段だ」と、コンラスは言う。「同じ値段でデジタル本を1冊買えば、8時間も楽しめるんだからね」
[2010年8月25日号掲載]