新車販売「2割減」が朗報な理由
8月の新車販売台数の大不振は「二番底」の予兆ではない。自動車業界は前よりスリムで健康になっている
快調 フォードの人気車種エクスプローラーの2011年モデル(7月26日ミシガン州ディアボーンの同社本社前で) Rebecca Cook-Reuters
最近のニュースを読む限り、アメリカの自動車産業の置かれた状況は、かなり暗く見えるだろう。「8月の新車販売台数が大幅減」と、ウォールストリート・ジャーナル紙は書いた。「8月の新車販売台数としては、83年以来最低の数字」と指摘したのは、ロイターだ。
景気が「二番底」に落ち込むのではないかという懸念がしきりに指摘されているなかで、その不安を裏付けるかのようなデータが発表されれば、悲観論が高まるのも不思議でない。しかし、8月の新車販売台数のデータは、景気が二番底に落ち込みつつある証拠とは言い切れない。むしろ、実際はその逆だ。
モーター・インテリジェンス誌によれば、8月のアメリカの新車販売台数は99万7468台。7月に比べて約5%減、09年8月に比べて21%減だ。
「大幅下落」であることは間違いないが、10年8月と09年8月を単純に比較するのはおかしい。大リーグで筋肉増強剤の使用が横行し、「飛びやすいボール」が用いられていた時代と比較して、最近のホームラン数が少ないと言うようなものだ。09年8月の新車販売は、低燃費車への買い替えに補助金を支給するオバマ政権の政策(現在は終了)の恩恵を強く受けていた。
経済危機以前への郷愁は捨てよ
もっと長い目で数字の推移を見てみよう。モーター・インテリジェンスの統計によると、アメリカの年間の新車販売台数は、07年が1614万台、08年が1324万台、09年が1043万台と急減した。月次の数字を見ると、新車販売台数は08年春以降、09年11月まで減り続けている。もっとも、その後はこの8月までずっと、前年同月比でプラスを記録し続けた。その結果、2010年1〜8月のアメリカの新車販売台数は前年同期に比べて、18%増えている。
アメリカのGDP(国内総生産)成長率が減速するなかで、自動車の販売台数は伸びたのだ。2010年8月の新車販売台数は、1月の数字と比べると43%増えている。
現在のペースでいけば、2010年のアメリカの新車販売台数はおよそ1150万台となる見通し。09年より回復しているが、07年の数字には遠く及ばない。新車販売台数や住宅価格が07年の水準に戻っていないと嘆く人は多い。だが、あの超低金利時代は明らかに異常だった。当時に回帰することは決して望ましくない。