最新記事

アメリカ経済

新車販売「2割減」が朗報な理由

2010年9月6日(月)18時22分
ダニエル・グロス(ビジネス担当)

フォードの株価は今のほうが高い

 それに、新車販売台数だけに注目していては見えてこないものもある。確かに、ほかの条件がすべて同じであれば、デトロイトの自動車産業がたくさん車を売るにこしたことはない。なにしろ、自動車産業はアメリカ最大の製造業であり、小売業でもある。

 しかし、新車を1台売るごとに金を失ってまで年間1600万台の自動車を売ることに意味があるのか。常軌を逸した超低金利の自動車ローンを提供したり、大幅な値引きを行ったりしないと在庫をさばけないのであれば、生産台数を高い水準で維持しても意味がないのではないか。

 誰も目に留めていないかもしれないが、業界全体の売り上げがもっと大きかった06年と07年と比べて、フォードの株価は現在のほうがずっと高い。06年、フォードは北米で305万台を売り上げたが、何十億ドルもの赤字を計上した。その後、同社の北米市場での販売台数は、07年が289万台、08年が233万台、09年が196万台と減り続けたが、利益、財務状態、株価は目を見張るほど改善した。

今年の伸びは「本当の需要」

 フォードが経営をスリム化させ、ゼネラル・モーターズ(GM)とクライスラーが経営破綻を経験したことにより、アメリカの自動車産業の規模は大幅に縮小。それに伴い、業界はコスト削減に努めて、もっと小規模な(現実的な)販売台数で利益を上げられる体制に転換した。

 以前より高い金利、政府の支援策の終了、消費の全般的な不振などの逆風を乗り越えて、自動車の売り上げは2010年に入ってから(8月まで)増えてきた。この伸びを牽引したのは、人々の本当の需要だ。それは、金融会社や自動車ディーラーやメーカーや政府が自動車購入者に大盤振る舞いすることによって人工的に膨らませた需要ではない。

 アメリカの経済全体に、ほぼ同様の傾向が見て取れる。クレジットカードによる借り入れ高が減少し、逆に貯蓄額が増えているのに、小売産業の売上高は上昇している。

 もちろん、将来のことは分からない。自動車の売り上げが急激に減少して、アメリカ経済を景気の二番底に引きずり込む可能性もある。しかしデータを見る限り、アメリカの自動車産業は極めて健全な状態にあると言えそうだ。自動車産業は、無理のない「安定走行」の段階に入ったのかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中