新車販売「2割減」が朗報な理由
フォードの株価は今のほうが高い
それに、新車販売台数だけに注目していては見えてこないものもある。確かに、ほかの条件がすべて同じであれば、デトロイトの自動車産業がたくさん車を売るにこしたことはない。なにしろ、自動車産業はアメリカ最大の製造業であり、小売業でもある。
しかし、新車を1台売るごとに金を失ってまで年間1600万台の自動車を売ることに意味があるのか。常軌を逸した超低金利の自動車ローンを提供したり、大幅な値引きを行ったりしないと在庫をさばけないのであれば、生産台数を高い水準で維持しても意味がないのではないか。
誰も目に留めていないかもしれないが、業界全体の売り上げがもっと大きかった06年と07年と比べて、フォードの株価は現在のほうがずっと高い。06年、フォードは北米で305万台を売り上げたが、何十億ドルもの赤字を計上した。その後、同社の北米市場での販売台数は、07年が289万台、08年が233万台、09年が196万台と減り続けたが、利益、財務状態、株価は目を見張るほど改善した。
今年の伸びは「本当の需要」
フォードが経営をスリム化させ、ゼネラル・モーターズ(GM)とクライスラーが経営破綻を経験したことにより、アメリカの自動車産業の規模は大幅に縮小。それに伴い、業界はコスト削減に努めて、もっと小規模な(現実的な)販売台数で利益を上げられる体制に転換した。
以前より高い金利、政府の支援策の終了、消費の全般的な不振などの逆風を乗り越えて、自動車の売り上げは2010年に入ってから(8月まで)増えてきた。この伸びを牽引したのは、人々の本当の需要だ。それは、金融会社や自動車ディーラーやメーカーや政府が自動車購入者に大盤振る舞いすることによって人工的に膨らませた需要ではない。
アメリカの経済全体に、ほぼ同様の傾向が見て取れる。クレジットカードによる借り入れ高が減少し、逆に貯蓄額が増えているのに、小売産業の売上高は上昇している。
もちろん、将来のことは分からない。自動車の売り上げが急激に減少して、アメリカ経済を景気の二番底に引きずり込む可能性もある。しかしデータを見る限り、アメリカの自動車産業は極めて健全な状態にあると言えそうだ。自動車産業は、無理のない「安定走行」の段階に入ったのかもしれない。