最新記事

アップル

ジョブズがiPhone4のミスを認めるとき

iPhone4のアンテナ問題でジョブズが異例の緊急会見を開く。「批判は常に間違いだ」という企業体質を改め、謝罪しなければアップルは顧客の信用を失うだろう

2010年7月16日(金)18時11分
ファーハッド・マンジョー(オンライン雑誌「スレート」のテクノロジー担当コラムニスト)

自慢の新製品 アップルの開発者会議ワールドワイド・デベロッパーズ・カンファレンスでiPhone4を実演するジョブズ(サンフランシスコ、6月7日) Robert Galbraith-Reuters

 アップルは7月16日、発売されたばかりのiPhone4のアンテナ問題について記者会見する。だがCEO(最高経営責任者)のスティーブ・ジョブズが何を言うのか、まったく予測がつかない。

 まったく予想がつかないのは、これがアップルにとって初めての出来事だから。アップルはいまだかつて緊急記者会見を開いたことがなく、議論が噴出するような事態に陥っても記者や消費者、政府の監督機関に情報を公開することはほとんどなかった。

 その代わりにアップルは自社に都合のよい現実をつくり出そうとする。通話状況や電波受信の悪さを伝える山のような報道が数週間続いたあと、ジョブズが最初にやったことはiPhone4は完璧で狂っているのはユーザーだと主張することだった。彼はある購入者に「受信問題など存在しない」と語ったという。

 これまでアップルがこの問題で示した対策は1つだけ。それは実際より電波の受信状況をよく示してしまうアンテナ表示を「より正確」にして、正しい受信状況を把握できるようにすることだ。

 では別の見解を示している商品テスト専門誌コンシューマーリポートの調査結果は? アップルは自社サイトのサポートフォーラムから、製品に好意的でないコンシューマーリポートへのリンクを削除したようだ。

 この様子だと、おそらく記者会見では「強気に出る」作戦が採用されるだろう。ジョブズは舞台の上で自らテストを行い、受信状況の素晴らしさを示す。びっくりするような受信状況ですよとジョブズにメールしてきた購入者たちの声を紹介するかもしれない。

 さらにジョブズはiPhone4が大ヒットを続けていると言うこともできる。3日間で170万台という売り上げはアップルの製品として過去最高。ユーザーが群れをなして返品を申し出る兆候は----ない。

そんなにおかしな持ち方じゃない

 もちろんアップルも多少の譲歩はするかもしれない。購入者に無料で「バンパー」と呼ばれる専用のケースをプレゼントする可能性もある。バンパーはiPhoneの外部アンテナを包んで受信障害を解消する効果があるようだ(あるいは単に値下げするだけかもしれない。このゴムのかたまりは驚いたことに29ドルもする)。

 総じて大した対応はしない。製品のリコールも、謝罪も、過失を認めることもない。

 だが私はこの緊急記者会見がアップルの変化の兆候だと信じたい。「批判する側が常に間違っている」という同社の哲学を完全に駆逐する革命的な決定だと思いたい。iPhoneの何が問題なのかについて、確かな説明をしてほしい。そしてジョブズに望むのはたった1つの言葉。「アイム・ソーリー」だ。

 そろそろアップルは、誰もが明らかだと思っていることを認めるべきだ。アップルはミスを犯した。iPhoneに設計上の欠陥があるのは間違いない。

 コンシューマーリポートの試験結果やネット上で飛び交う何百もの苦情。それにアンガジェットアンオフィシャル・アップル・ウェブログというウェブサイトが考案した電波状況を測定するアプリを見るといい。iPhone4は左下の継ぎ目部分を覆うように握ると受信に障害が出る。

 私がカリフォルニア州の自宅で電話をかけていたとき、左手でiPhone4を持つと(右利きの人でも珍しくない持ち方だ)電波は著しく悪くなった。先週だけで少なくとも5回は通話中に電話が切れた。以前のiPhoneより頻度が高い(個人的にはかなり高い)と感じた。

 たしかに私にはこれがアップルのせいなのか、電話会社AT&Tのせいなのかは分からない。だがアメリカでは両社は切っても切れない間柄で、どちらがどうというのは大した問題ではない。問題なのはこの携帯電話は最低だ、と感じた私の気持ちだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ停戦が発効、人質名簿巡る混乱で遅延 15カ月に

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中