人民元の切り上げは既定路線
危機に乗じて世界の経済・金融大国を目指す中国は、市場改革の一環として変動相場制への移行も視野に入れている
危機は勝機 2020年までに中国の経済力にふさわしい金融センターを創るのが目標(中国の株価ボード) Reuters
新しい株式市場を創設するタイミングとして、過去70年間で最悪の景気後退期はふさわしくないと普通は思う。だが、中国の考えは逆だ。中国政府は、予定より10年ほど遅れていた新興企業向け株式市場GEM(グロース・エンタープライズ・マーケット)の創設を発表した。いわば、ナスダック(米店頭市場)の大陸版だ。
5月に発効する新ルールの下では、創業3年、純資産2000万元(300万ドル弱)、連結利益わずか1000万元の会社も、香港の隣にある深!市場で株式を公開できることになる。
中国の主要市場である上海の株価は昨年後半にざっと3分の2も下落。まだ完全には回復していない。それでも新市場創設が前進している事実は、中国の経済的な力量と自信を雄弁に物語っている。
中国政府は、97年のアジア通貨危機のときにも危機をてこにして地域の貿易自由化を推進した。今回も、世界的な景気後退を資本市場における中国の勢力拡大のチャンスとみている。周囲がつまずいている間に自分が成長する戦略である。
雇用生む小企業に資金を
中国は最近、香港での貿易決済を人民元でも行えるようにすると発表した。人民元と他通貨の完全な交換性の実現へ向けた重要な一歩だ。上海を真の国際市場にするために、変動相場制への移行という目標も前面に押し出している。
中国国家発展改革委員会の劉鉄男(リウ・ティエナン)副主任は最近の記者会見で、中国の目標は2020年までに「中国の経済力と人民元の国際的地位にふさわしい」金融センターを創設することだと宣言した。中小の株式未公開企業を対象とするGEMのような市場は、そうした目標の達成に不可欠なステップだろう。
これまで中国政府の5850億ドルの景気刺激策の大半は、建設や不動産、運輸といった業種の国有企業につぎ込まれた。だが中国のGDP(国内総生産)の約3分の2は、民間企業が生み出したもの。新規雇用の大多数も、民間の小企業によるものだ。GEMの創設で、彼らは喉から手が出るほど欲しい資本を調達する新たな手段を手に入れる。
GEMは革新を追求する中国の、より大きな変化の一部であるという専門家もいる。「一流かつ独自の技術を持つ成長率の高い中小企業を支援することは、今や中心的な戦略になった」と、シティグループのグローバル・インベストメント・バンキング部門のロバート・クーン上級顧問は言う。
新市場はまた、有り余る資本の有効活用という中国のもう一つの課題にも対応する。中国は約2兆ドルの外貨準備をため込んでいる。だが北京大学中国経済研究センターの副所長姚洋(ヤオ・ヤン)は、「その資金の多くは投資されずただ積んである。この金はGEMのような市場で使われるべきだ。中国人のためにも世界経済のためにもなる」と言う。
投資家にはハイリスク株
もちろん、経済が不安定な時期の市場創設にはリスクが伴う。中国証券監督管理委員会の姚剛(ヤオ・カン)副主席は4月、GEMでの株式公開候補として最初に選ばれた企業の約半分は、業績不振で既にその資格を失ったと認めた。また投資家がリスクの高い新興企業株で損をすれば、社会不安を増幅するかもしれない。クーンが言うように、中国の投資家はいまだに「儲けは自分のもの、損は政府のせい」という態度を取る。