最新記事

アメリカ経済

オバマ金融規制の知られざる落とし穴

2010年4月27日(火)17時45分
ロバート・サミュエルソン(本誌コラムニスト)

 議会の提案では、政府は経営危機に陥った大手金融機関を段階的に清算し、他の金融機関に資金拠出を求めて整理資金に当てるという。広い意味では、FDICの権限が及ぶ範囲を、銀行だけでなくAIGのような保険会社やリーマンのような投資銀行、さらにはヘッジファンドにまで拡大する試みだ。

 この方策には批判もある。アメリカン・エンタープライズ研究所のピーター・ワリソンは、大きすぎて潰せない金融機関に厳しい規制を課すのは、「彼らに特権を与え、彼らを米政府の道具にする」行為だと指摘する。それでも、何もしないよりは何らかの対策を取ったほうがマシだ。

どうなる「ボルカー・ルール」

 取引の透明性を高めることで金融の安定化を計れるというメリットもあると、MFS投資マネジメントのロバート・ポーゼン会長は言う。なかでも注目なのは、金融大手ゴールドマン・サックスの証券詐欺疑惑で話題のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)をはじめとする金融派生商品(デリバティブ)だ。その大半は店頭取引で、トレーダーと顧客が電話やメールで交信しながら行われる。

 デリバティブには、金利変動や信用リスクをヘッジするといった合法的な役割もある。だが店頭取引が中心のため、公の目にも触れないまま、巨額の損失が生じた(AIGのCDS関連の損失は4000億ドル以上)。

 バラク・オバマ大統領は、店頭デリバティブを取引所取引に移行させる新規制を提案しており、実現すればリスクを限定する効果があると、ポーゼンは言う。取引所取引ではデリバティブ商品に毎日値が付き、損を出したトレーダーは追加の担保を用意するため、債権が焦げ付くことはなくなるはずだ。

 いい話に聞こえるが、改革の結末を完全に予測することはできない。銀行の自己勘定取引を制限する「ボルカー・ルール」の是非や、検討中の消費者保護機関の権限など、多くの課題が残っている。問題はそれだけではない。

 この法案には、われわれが謙虚になるべき深い理由がある。金融システムの規模があまりに大きく、あまりに複雑で、あまりにグローバルなため、その未来予想図を描ききれないのだ。どんなすばらしい「改革」にも必ず、賞味期限はある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米年内利下げ回数は3回未満、インフレ急速に低下せず

ワールド

イラン大統領ヘリ墜落、原因は不明 「米国は関与せず

ワールド

ICC、ネタニヤフ氏とハマス幹部の逮捕状請求 米な

ビジネス

FRB副議長、インフレ低下持続か「判断は尚早」 慎
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『悪は存在しない』のあの20分間

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 5

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 6

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 10

    「親ロシア派」フィツォ首相の銃撃犯は「親ロシア派…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中