「経済成長なき幸福」という幻想
1日2ドル未満で暮らす世界の26億人が、「経済成長はストレスの原因」と聞いたら耳を疑うだろう。しかしヨーロッパでは保守系の人々でさえ、マルクス主義者のいうエコノミズム(経済主義)を広く受け入れている。資本主義は、一連の経済活動に私たちの生活を従わせているという考えだ。
幸福と繁栄の相関関係
こうした批判にも一理ある。だが「経済成長なき幸福論者」には、経済成長のない現実がどんな結果をもたらすのかが見えていない。
ハーバード大学のベンジャミン・フリードマン教授は著書『経済成長の倫理的帰結』で、この点を巧みに説いている。成長を諦めた社会では限りある資源をめぐって醜い争いが起こり、不寛容とポピュリズム(大衆迎合主義)への道が開かれるという。
経済成長がすべてではないし、それで人間関係や共同体や文化の価値が測れるわけでもない。だが健康や長寿、幸福追求の自由といった生活の質と、経済的繁栄の間に相関関係があるのも確かだ。
経済危機後の世界では成長が難しくなるとしても、成長を諦める理由にはならない。むしろ教育や技術革新、起業や競争力の分野で、成長を促す正しい政策を考え出すことに全力を注ぐべきだ。
[2010年3月31日号掲載]