バーニー・フランク、大銀行退治へ
例えば航空会社は、ジェット燃料の乱高下から身を守るためにコモディティー・スワップと呼ばれる店頭デリバティブを多用する。ほかにも多くの企業が、金利スワップを使って将来の債務支払いを固定したり、通貨スワップで為替変動に備えている。ここでのデリバティブの有用性を疑う者はない。
批判されているのは、銀行がこれらの商品を密室で企業と直接交渉して販売したがる点だ。デリバティブが顧客ごとに設計され、外から見えないところで売られれば売られるほど、投資家や監督当局はその価格やリスクを見極めるのが難しくなる。一方の銀行は、この不透明さに乗じて大きな利ざやを乗せて荒稼ぎすることも可能だ。
「中古車市場のようなものだが、中古車だって、デリバティブよりはずっと透明性が高い」と、ホワイト・ナイト・リサーチ&トレーディングのデリバティブ専門家アダム・ホワイトは指摘する。
銀行は価格をつり上げているという批判を一蹴し、店頭取引を望むのは企業の側だと言う。規制対象の取引所デリバティブと違い、店頭デリバティブでは証拠金の必要もなくコストが省けるからだ。
銀行にだまされているのではないかと言うと、フランクは激しく否定する。だが法案の細部についてはまだ、精査が必要な部分もあると認めた。「私は、自分には未知の多くの事柄を処理する責任者になった。知らないことも多かった。知識不足を補うため、たくさんの人々の知恵を拝借してきた」
一度、例外的なデリバティブの場外取引を認めたのは、金融業界の便宜を図るためではなく店頭取引を望む企業の意をくんだ結果だと彼は言う。「エンドユーザー例外規定」を推した2つの大企業の名を挙げ、フランクはこう言った。「ボーイングはウォール街のロビイストか? (機械メーカーの)ジョン・ディーアはウォール街のロビイストか?」
企業もだまされている
だがCFTCのゲンスラーらは、事業会社を対象とした例外規定も、ヘッジファンドやプライベート・エクイティ(未公開株)ファンドやその他の金融機関の規制逃れに使われると指摘してきた。
全米消費者連盟のバーバラ・ローパーは、例外規定を推す企業の一部は銀行に利用されていると言う。証拠金のコストにばかり気を取られ、公開の取引所で競争入札をすればより安い値段でデリバティブを購入できることに気付いていない企業もあるという。
フランクは、彼を批判する人の多くは立法プロセスでの「駆け引き」を理解していないと言う。複雑怪奇な商品に対する規制を強化する法案に、過半数の賛同を得るのがどれほど大変なことか。
それに勝利もあった、と彼は言う。CFPAの設置が1つ。もう1つは、破綻金融機関の処理コストに充てるために「解体基金」を設け、資産規模500億ドル以上の大手金融機関などから資金を徴収してプールするという修正改革案だ。「これもウォール街のロビー活動の結果かね? とんでもない。彼らは激怒していたよ」
連邦下院議員としての30年近いキャリアのなかで、今回の金融改革が最も困難だと彼は認める。「人生を乗っ取られたも同然だ」
ウォール街はロビー活動を諦めない。フランクがデリバティブへの態度を硬化させると、ロビイストたちは取引所そのものを定義し直そうとしたと、ある元ロビイストは言う。彼らが提案したのは「代替スワップ執行機関」という新種の取引所で、そこではデリバティブの取引報告は事後にすればいいという内容。これでは公開入札もなく、監視の目も及びにくい。
先週、フランクは部下に命じてこの「新」定義を書き直させたが、法の抜け穴がこれで完全に塞がったかどうかは疑問が残る。