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通貨「人民元切り上げ」中国の狙いとは
突然の通貨政策変更はアメリカの圧力に屈したからか、それとも「為替操作」が国内経済に及ぼす弊害を認識したからなのか
譲歩かポーズか 今回の政策転換については、小幅な切り上げでアメリカの圧力をかわすのが目的だとする見方も Nicky Loh-Reuters
ここ数日、中国が通貨政策を見直して対ドルでの人民元の切り上げを発表するのではないかとの憶測が飛んでいる。この件について最も詳しく書いている米ニューヨーク・タイムズ紙、キース・ブラッドシャー記者の記事を見てみよう。
情報筋は4月8日、中国政府は近く人民元の変動幅拡大を容認する政策を発表する見通しだと語った。変動幅の拡大は小幅ではあるが、対ドルでの速やかな切り上げが行われるという。今回の通貨政策の変更は、中国の指導部が1晩で対ドルでの人民元の価値を2%切り上げた05年の決定をモデルとしたものだ。
だが中国は変動幅拡大の発表と同時に、人民元の価値は上昇するだけでなく、いつでも下落する可能性があることを強調すると見られる。人民元の高騰を見込んで、国内に投機資金が流入してくるのを牽制するのが狙いだと、先述の情報筋は言う。
中国政府内で通貨政策の見直しが合意されつつあるのは、アメリカのティモシー・ガイトナー財務長官が8日に北京で行った王岐山(ワン・チーシャン)副首相との緊急会談の結果だ。
つい先月まで人民元切り上げをめぐって対立していた米中関係だ。中国はなぜ急に政策変更に踏み切ったのか。ブラッドシャーはいくつかの答えを提示している。
中国の輸出産業に近い政府の商務部は先月いっぱい、人民元の価値上昇に強く反対していた。だが政府内で別の利害をもつ勢力との議論に敗れたと見られる。
この勢力が主張したのは以下の3つ。
1)中国はドルに依存しすぎている
2)より変動幅の広い通貨が経済を管理しやすくする
3)08年7月以来ずっと人民元の切り上げに断固反対し続けてきたせいで、中国は国際社会で孤立を深めている
別の情報筋によれば、中国当局が通貨政策の変更を決めたのは、主に国内の経済環境を評価したうえでの判断だという。増大するアメリカからの圧力や、アメリカほど大っぴらではないにしろヨーロッパや新興諸国からもかかっている圧力に屈した結果ではない。
では今、中国が政策を変えた裏には何があるのか? まず今回の変更は、形だけのシンボリックな動きだとも考えられる。今回の決定で、中国政府による人民元の「為替操作」を非難してきたチャールズ・シューマー米上院議員が求めるほどの切り上げが行われることは、まずありえない。
それでも、完全に形だけのものというわけでもなさそうだ。中国の政策転換が本物なら、その変化の要因としては以下の3つが考えられる。
1)人民元の為替レートを固定し、実際より過小評価することによって国家の利益が縮小していると、政府の指導部が認識した
2)多くの国々からの圧力と、次の20ヵ国・地域(G20)首脳会議(金融サミット)での孤立を恐れた
3)アメリカから一方的に「為替操作国家」呼ばわりされたり、貿易戦争を仕掛けられることを恐れた
この3つは相互に関わっており、実際に何が中国の背中を押したのかはわからない。だが私は1と2の要因は3よりはるかに重要だと考えている。とはいえ、一部の米議員の馬鹿げた行動が中国を動かしたとの可能性も排除できない。
今のところ、経済学者のポール・クルーグマンやフレッド・バーグステンといった人民元の切り上げを求める強硬論者は沈黙を守っている。今回の中国政府の変化について、彼らの意見をぜひとも聞いてみたいものだ。
[米国東部時間2010年04月08日(木)12時13分更新]
Reprinted with permission from Daniel W. Drezner's blog, 09/04/2010. ©2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC