最新記事

アメリカ経済

オバマ「輸出倍増」計画は茶番だ

本当に5年間で輸出を2倍に増やせる? オバマの「国家輸出戦略」の中身を見てみると——

2010年3月15日(月)18時12分
ダニエル・ドレズナー(米タフツ大学フレッチャー法律外交大学院教授)

アリバイづくり オバマは3月11日にワシントンで演説し、国家輸出戦略について明らかにしたが…… Jim Young-Reuters

 3月11日、バラク・オバマ米大統領が演説を行い、「国家輸出戦略」を発表した。この構想により、5年間でアメリカの輸出を倍増させるのだという。

 以前書いたように、1月の一般教書演説でオバマが輸出倍増計画をぶち上げたときから、私はこの計画の現実性を極めて疑わしく感じている。もっとも、過去に5年間で輸出が倍増した例がある(最も新しいところでは1981年までの5年間)ことを理由に、「2015年までに輸出を倍増させるというオバマの計画は荒唐無稽とは言えない」という意見もある

 私の立場をはっきりさせておこう。5年でアメリカの輸出が倍増する可能性は小さいが、ありえないことではない。しかし、オバマの国家輸出戦略には輸出を増やす効果などない。

 アメリカの輸出の増減を左右するのは、世界の国々の経済成長率とドルの為替レート。ほかの国が高い経済成長率を記録し、しかもドルが安くなれば、アメリカの輸出は増える。それ以外の要素は、なんの関係もない。

セールスマン大統領が行く!

 では、オバマの国家輸出戦略にはどのような内容が盛り込まれているのか。11日の演説の中身を見てみよう。


 第1に、自社の製品を輸出するために後押しを必要とする企業、とりわけ中小の企業に対する融資を大幅に拡大します。


 百歩譲ってこの政策が大きな効果を上げ、中小企業の輸出拡大につながるとしても(実際はありえないが)、輸出倍増という目標の達成には近づかない。アメリカの輸出のおよそ7割は、大企業が占めているからだ。

 ほかには、オバマはどんな施策を用意しているのか。


 アメリカ合衆国の政府は、企業とそこで働く人たちの力になります。アメリカの勤労者と企業のために、私自身が国外で強力に粘り強く売り込みをしていくつもりです。政権をあげて、その努力を行います。


 オバマが思い描いているのは、次のようなシーンだろうか。


 舞台は、マレーシアのどこかの小さな工場。工場長と現場責任者が組み立てラインをのぞき込んでいる。

現場責任者 「もう少しマシな部品があれば、もっといい製品をつくれるのですが」

工場長 「どこかから輸入してもいいな。ベトナム、台湾、韓国、日本......あたりかな」

 トランペットの音が次第に大きくなり、オバマ大統領が次世代型スクーターのセグウェイに乗って登場する。

オバマ大統領 「アメリカ製品の購入は検討しましたか?」

 オバマが退出する。工場長と現場責任者は2人して、自分の頭を手でぴしゃりと叩く。

工場長 「忘れてた! 世界最大の経済大国から輸入することを思いつかなかったなんて、信じられないな!」

現場責任者 「アメリカでものをつくっていると思ってもいなかったように見えちゃいますね!」

工場長 「教えてくれてありがとう、オバマ大統領!」


 こんなことが世界の至る所で繰り広げられると思っているとすれば、あまりに楽観的だ。

単なる政治的アリバイづくり?

 オバマの演説内容をさらに見ていこう。


 アメリカ企業が(国外の市場に)自由に公平に参入できるようにします。その一歩は、既に合意している通商協定を実施していくことです。


 この類いの主張は、いわば税務署の徴税機能を強化すれば財政赤字が解消すると言うようなもの。なんの成果も生まない。

 それに、仮に新しい通商協定を結べばアメリカ企業の輸出市場が広がるとしても、この面での新しい具体的な政策はオバマの演説のどこを探してもない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮、18日に新型弾道・巡航ミサイル試射 金氏指

ワールド

米トラック労組、大統領選でいずれの候補も支持せず

ビジネス

米金利先物、年内の追加利下げの見方強まる FOMC

ビジネス

トランプ氏「大きな利下げ」、FRB決定受け
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    北朝鮮で10代少女が逮捕、見せしめに...視聴した「禁断の韓国ドラマ」とは?
  • 2
    「ポケットの中の爆弾」が一斉に大量爆発、イスラエルのハイテク攻撃か
  • 3
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢な処刑」、少女が生き延びるのは極めて難しい
  • 4
    クローン病と潰瘍性大腸炎...手ごわい炎症性腸疾患に…
  • 5
    浮橋に集ったロシア兵「多数を一蹴」の瞬間...HIMARS…
  • 6
    「トランプ暗殺未遂」容疑者ラウスとクルックス、殺…
  • 7
    キャサリン妃とメーガン妃の「ケープ」対決...最も優…
  • 8
    地震の恩恵? 「地震が金塊を作っているかもしれない…
  • 9
    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…
  • 10
    岸田政権「円高容認」の過ち...日本経済の成長率を高…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは...」と飼い主...住宅から巨大ニシキヘビ押収 驚愕のその姿とは?
  • 3
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢な処刑」、少女が生き延びるのは極めて難しい
  • 4
    キャサリン妃とメーガン妃の「ケープ」対決...最も優…
  • 5
    【クイズ】自殺率が最も高い国は?
  • 6
    北朝鮮で10代少女が逮捕、見せしめに...視聴した「禁…
  • 7
    ロシア空軍が誇るSu-30M戦闘機、黒海上空でウクライ…
  • 8
    エリザベス女王とフィリップ殿下の銅像が完成...「誰…
  • 9
    ウィリアムとヘンリーの間に「信頼はない」...近い将…
  • 10
    世界に離散、大富豪も多い...「ユダヤ」とは一体何な…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 3
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 4
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 5
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 6
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 7
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
  • 8
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 9
    止まらない爆発、巨大な煙...ウクライナの「すさまじ…
  • 10
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中