最新記事
医療

クローン病と潰瘍性大腸炎...手ごわい炎症性腸疾患に高まる【新たな治療法】の期待

STEPS FORWARD FOR IBD

2024年9月18日(水)17時06分
フォーク・ヒルデブランド(英クアドラム研究所研究員)、カタジナ・シドルチュク(同研究所研究員)、ウィン・クーン(同研究所博士課程)
クローン病と潰瘍性大腸炎、、、手ごわい炎症性腸疾患に高まる【新たな治療法】の期待

EMILY FROST/SHUTTERSTOCK

<コントロールが利かない炎症反応を引き起こすプロセスの連鎖を遮断する。この治療法の開発が実を結べば、多くの炎症性腸疾患(IBD)患者にとって朗報となる>

炎症性腸疾患(IBD)は、治療が非常に困難な慢性疾患だ。患者の数もこの30年間で1.5倍近くに増加し、いま世界で約500万人がこの病気を患っている。

IBDは、クローン病および潰瘍性大腸炎という2種類の手ごわい病気の総称だ。患者は下痢や下血、体重減少、腹痛など、さまざまな症状に苦しめられる。痛みは時に耐え難く、手術が必要になるケースもある。

しかし、IBDの原因ははっきり分かっていない。


症状の核を成すのは、過剰でコントロール不能な炎症だ。炎症は一般に、体が病原体などと戦っているときに起きる。その意味で炎症は私たちの免疫システムにおける重要な要素だが、IBDの場合は腸が病原体の攻撃を受けていないときにも炎症が起きる。

炎症は、細胞が発するシグナルの連鎖を通じて引き起こされる。細胞が病原体の存在を察知すると、ほかの細胞にシグナルを送り、その細胞がまた別の細胞にシグナルを送り......という具合に、シグナルの連鎖が起きる。こうして炎症反応が生じるのだ。

既存のIBD治療法の多くはこのシグナルを遮断し、連鎖を止めることを目指している。しかし、効果がない患者も多い。

その点、いま研究が進められている新しい治療法は、「NOD2」という遺伝子が関わるシグナルの連鎖に着目する。具体的には、このプロセスでしか見られない「RIPK2」というタンパク質を治療法の標的にしようというのだ。

欧州分子生物学研究所(EMBL)の研究チームは、RIPK2の構造を解明しようとしている。この分子が発するシグナルを遮断できる新薬の開発に道を開くことが狙いだ。

カギを握る腸内細菌とは

もう1つの新しい治療法の可能性として、腸内細菌に着目したものがある。

私たちの腸内に生息する細菌のコミュニティーは「腸内細菌叢(マイクロバイオーム)」と呼ばれ、ぜんそくから肥満に至るまでさまざまな健康上の問題と関わりがあるとされてきた。腸内細菌叢の乱れは、IBD患者の特徴の1つでもある。

腸内細菌の状況が変わった結果として、体に変化が起きるのか。それとも免疫システムなど体のほかの部分になんらかの変化が起きた結果として、腸内細菌の状況が変わるのか。この点はまだはっきり分かっていない。

しかし、オーストラリアのモナシュ大学ハドソン医科学研究所の研究チームは、そうした「ニワトリが先か、タマゴが先か」の問題に取り組むよりも、IBD患者の腸内細菌叢でどの細菌同士の反応が最も影響を受けているのかを解明しようとしている。

それを明らかにすることで、どの腸内細菌を治療の標的にすれば、腸内細菌叢のバランスを取り戻せるかが分かり、IBDの症状を改善できるのではないかと期待されている。

こうした新しい治療法が実用化されるのはまだ先の話。それでも治療法の開発が実を結べば、多くのIBD患者にとって朗報となるだろう。

The Conversation

Falk Hildebrand, Researcher in Bioinformatician, Quadram Institute

Katarzyna Sidorczuk, Research Scientist in Metagenomics, Quadram Institute

Wing Koon, PhD student in Bioinformatics,Quadram Institute

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


ニューズウィーク日本版 世界も「老害」戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月25日号(11月18日発売)は「世界も『老害』戦争」特集。アメリカやヨーロッパでも若者が高齢者の「犠牲」に

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 9
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中