オバマのゴールドマン制圧作戦
新しい金融規制改革案は政府の救済策で荒稼ぎした金融機関を標的にしている
ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーの社員は、納税者の支援のおかげでボーナスをもらえた喜びをじっくり味わってほしい。バラク・オバマ米大統領が1月21日に発表した新たな金融規制改革案が実施されたら、これが最後の大盤振る舞いになるかもしれないからだ。
規制案に盛り込まれた目標は2つある。1つは預金量のシェアだけでなく負債の市場シェアにも制限をかけることで、銀行の規模が大きくなり過ぎないよう歯止めをかけること。巨大化を防げば、破綻した場合に救済せざるを得なくなる事態がなくなる。
もう1つは銀行の事業内容の制限。預金者など顧客と無関係な業務が禁じられる。ヘッジファンドやプライベート・エクイティ(未公開株)ファンドの所有や投資が禁止されるほか、リスクの高い自己勘定取引に制限が加えられる。国の支援を受けた銀行が他人の金で大きなリスクを取って利益の多くを懐に入れ、投資が失敗した場合に最小限の責任しか取らないなどということは許されなくなる。
昔は、ヘッジファンドと投資銀行は通常、パートナーや従業員、他の企業から資金を集め、資本市場で金を借りた。FRB(米連邦準備理事会)から融資を受けたり、連邦預金保険公社(FDIC)の保証の対象となる預金に手を付けることはできなかった。
商業銀行と投資銀行の業務を厳格に分離した33年のグラス・スティーガル法による歯止めが99年になくなった後、シティグループやJPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカなどは両者の業務を一つ屋根の下に統合した。
一方、ベアー・スターンズ、ゴールドマン・サックス、メリルリンチ、リーマン・ブラザーズ、モルガン・スタンレーなどの大手投資銀行はこの流れに加わらなかった。自己勘定取引を行い、ヘッジファンドや未公開株ファンドを手掛けていた。
銀行に二者択一を迫る
08年に本格化した金融危機をきっかけに、投資銀行の立て直し策が次々と実施された。投資銀行は商業銀行持ち株会社にしか許されていなかったFRBからの割安な融資を受けられるようになった。
リーマン・ブラザーズの破綻後、ゴールドマンとモルガンは急きょ、銀行持ち株会社に転身。FRBとFDICによる恩恵を存分に活用できる立場になった。FDICは預金の保護限度額を上げ、さらに金融機関の債務保証プログラムを打ち出した。
09年、投資銀行は極めて低金利の助成金を貸し付けに利用したが、同時に自らの投資業務などにも使った。なかにはかなりうまくやったケースもある。ゴールドマンは09年、134億ドルも稼いだ。
オバマはグラス・スティーガル法の復活を狙っているわけではない。新規制の下でも銀行は個人対象の業務を行う支店網を持つと同時に、M&A(合併・買収)の仲介や証券の引き受けといった投資銀行業務を取り扱うことができる。だがFDICの保護を受けた預金をハイリスクの取引に利用することはできなくなる。
「この規制が実施されれば、金融機関は自己勘定取引をするか、銀行を運営するか、どちらかを選ばなければならなくなる」とオバマ政権の高官は語った。
規制のこの部分はゴールドマンが標的になっているようだ。オバマ政権高官によれば「特別な保護を受けた者が自己勘定取引でかなりの利益を出していることを知り、大統領と経済チームは綿密な調査が必要だと考えた」という。
この規制は低金利の融資を最大限に活用しているゴールドマンとモルガンに最も大きな影響を及ぼすだろう。投資銀行業務の売上高が直近の四半期決算で全体の5分の1未満だったJPモルガンなどにとってはそれほど問題ではない。