バーナンキ再任批判の落とし穴
全米12地区の連邦準備銀行の中には、警告を出し始めた人もいる。フィラデルフィア連邦準備銀行のチャールズ・プロッサー総裁はこう語る。「(FRBは)1年近く、FF金利をほぼ0%に維持している。莫大な流動資金の流入を制限するために適切な処置を取らなければ、インフレ率は受け入れがたいレベルまで上がりそうだ」
一方で、FRBが失業問題に取り組むよう圧力をかけるエコノミストもいる。サンフランシスコ連邦準備銀行のジャネット・イェレン総裁は11月、あまり早期に金利を上げないようクギを刺した。「もちろんある時点で、我々は金融引き締めを行う必要が出てくるだろう。しかしそのときが来るまでは、雇用創出に必要な金融緩和を行わなければならない」
著名エコノミストたちは、失業問題について異例の緊急対策を続けるようFRBに求めている。「量的緩和」を拡大する、つまり経済に直接資金を投入するのだ。そうした主張の筆頭に立つのが、FRBの元研究員で現在はピーターソン国際経済研究所にいるジョセフ・ギャグノンと、ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマンだ。FRBは政府の刺激策が不十分であることを認め、2兆ドル規模の量的緩和を行うべきだと彼らは主張する。これはインフレを招くかもしれないが、企業活動を支え、ひいては雇用を拡大させるというのだ。
バーナンキ「否決」でも政策は変わらず?
バーナンキはまだ自分の手の内を見せていない。ただし、「長期にわたって」金利を抑えるつもりだと言い、どちらかというと緩和策に傾いていると示唆する。「(FRBが)今以上の緩和策を取るとは考えにくい」と、アメリカン・エンタープライズ研究所のケビン・ハセット経済政策研究部長は言う。しかし「FRBはこのところ異例の政策を取ってきた。だから、その行動を監視する必要がある」。
最終的に議会がバーナンキの再任を認めなかった場合(その可能性はほとんどないが)、ホワイトハウスの経済顧問ラリー・サマーズ、大統領経済諮問委員会(CEA)のクリスティーナ・ローマー委員長、サンフランシスコ連邦準備銀行のイェレンなどが後任として考えられる。しかし彼らもバーナンキと同じような政策を取る可能性が高いと、FRBに詳しい専門家たちは指摘する。
バーナンキ再任をめぐる政治論争は、基本的には後ろ向きの議論だ。彼の最大の失敗(住宅バブルを見逃したこと)と、最大のギャンブル(金融救済策の実施などFRBの権限拡大)はすでに過去の話。それよりも議会とFRBウォッチャーは、差し迫った経済問題のほうに焦点を合わせるべきだ。