ドバイ、金ピカ国家の宴が終わるとき
不動産市場の崩壊に大量解雇──中東の優等生を襲う金融危機の余波
時代の終わり ドバイの人工島にオープンしたリゾート施設「アトランティス」。オープニングセレモニーには2000万ドルがつぎ込まれた(08年11月) Jumanah El-Heloueh—Reuters
本誌が「ドバイがやばい」と題した特集で発展の光と影をリポートしたのは07年12月。その後1年の間に世界経済危機の激震にのみこまれ、「光」の部分にまで暗い影が差しはじめている。いま「ドバイが本当にやばい」らしい。
アメリカの歴史学者バーバラ・タックマンは、第一次大戦にいたる過程を克明に描いた著作『八月の砲声』の中で、大戦前の時代の終わりを英国王エドワード7世の葬儀と重ね合わせた。
9人の国家元首が騎馬で参加した壮観な葬列は人々に「賛嘆のため息」をつかせたと、タックマンは書いている。しかし国王の葬儀が終わった後、あるイギリス貴族はこうもらした。「私たちの人生の航路を指し示していた古い浮標(ブイ)がすべてどこかに押し流されてしまったような気分だ」
昨年11月のある日、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで繰り広げられた一大絵巻はこれとはまったく趣旨が異なるものだが、タックマンが存命であればきっと目にとめただろう。
そのお祭り騒ぎにつぎ込まれた予算は、2000万ドル。シャーリーズ・セロンやリンジー・ローハン、マイケル・ジョーダン、ロバート・デ・ニーロといったセレブも駆けつけた。打ち上げ花火はあまりに規模が大きく、天国から見下ろしでもしないかぎり全体が見えないほどだった(実際、宇宙空間からも花火は見えた)。
このイベントは、15億ドルの資金を投じて人工島に建設された高級リゾート「アトランティス」のオープンを祝うもの。ドバイが夢の実現する究極の理想郷であることを世界に知らしめる絶好の舞台だと、主催者側は意気込んでいた。
だが、葬式のような気分でいる出席者も多かった。ドバイの夜空で花火が破裂していたころ、世界経済は違う意味で破裂し続けていた。世界的な信用収縮の波は、この中東の金持ち国にも押し寄せ、誰もがうろたえていた。まさしく「浮標がすべてどこかに押し流されてしまった」かのように、人々は感じていた。
「悲劇はまだ始まったばかり」だと、ドバイ屈指の不動産開発会社のある幹部はシャンパングラスをじっと見ながら言った。「これからまだ多くの人が傷つき、多くの夢が砕け散ることになる」
打撃を受けるのは、金持ちや投機家だけではない。好景気を謳歌するドバイの開発ブームを支えるために「輸入」されていた外国人労働者は職がなくなり、すでに祖国へ送り返されはじめている。
原油急落で状況が一変
建築現場には、工事が途中でストップした高層ビルが放置されている。ペルシャ湾にずらりと並んで停泊している船を見たかと、前出の不動産開発会社幹部が言った。「買い手がつかない鉄鋼とコンクリートをどっさり積んで、身動きが取れずにいる」
ドバイの運命はグローバル経済の運命、とまで言うのは大げさすぎるかもしれないが、両者は切っても切り離せない関係にある。UAEの七つの首長国の一つであるこの都市国家は、ビジネスのグローバル化の潮流を世界のどこよりも象徴している。ドバイほど、世界中の投機マネーを引き寄せた都市はほかにほとんどないだろう。
投機マネーの多くはアラブの産油国、とりわけドバイと同じくUAEの構成国であるアブダビからやって来る(UAEの石油資源の大半を握るのはアブダビだ)。そのほかにも、イラン、インド、中国、ロシア、ヨーロッパ、アメリカなど、世界のいたるところから莫大なカネが流れ込んできた。
少なくともこの10年、ドバイは国を挙げて不動産投機に明け暮れていた。昨年に入ってもその傾向はしばらく続き、第1四半期でドバイの住宅(その多くはまだ建設中だった)の相場は43%もはね上がった。金融機関はいとも簡単に住宅融資を行い、投機家はローンの最初の支払期日が来る前に(早い場合は購入後数日で)不動産を転売して、巨額の利ざやを手にしていた。