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金融危機

FRBの戦いは正しかったか

2009年9月16日(水)14時58分

――バーナンキは07年12月から08年の初めには既に、自分が経済をミスリードしていると分かっていたとあなたは書いている。

 彼とポールソンは危機について「限定的」という言葉を意図的に使った。彼らは住宅市場の下落がほかの要素で相殺されると考えた。住宅バブルが金融システム全体にいかに深く浸透しているか。アメリカの住宅価格は大恐慌以後は下がっていないから下がらないという誤った前提に、世界の金融システム全体がいかに依存しているか。そこを理解していなかった。

 07年の終わりから08年の初めにバーナンキは「この筋書きは見覚えがある」と言いだした。何か手を打たなければ再び大恐慌が起きるだろうと思い始めたのだ。


経済の恐竜に挑んだ古生物学者

――実際、バーナンキは大恐慌時代の経済史の専門家だ。彼は大恐慌についてミルトン・フリードマンをたたえたという。

 ミルトン・フリードマンは、アンナ・シュワルツと共に大恐慌を分析してノーベル経済学賞を受賞した経済学者だ。彼らはFRBが緊縮財政を招き、ひどい不景気を恐慌に変えたと指摘した。

 フリードマンの90歳の誕生日(02年7月)に当時FRB理事だったバーナンキは、「あなたの言うとおりだ。われわれが大恐慌を招いた。申し訳ない。あなたのおかげで同じ過ちを繰り返さないことに感謝します」と言った。

 冗談のつもりだったのだろう。というのも当時の経済学の主流において、大恐慌が再び起こり得るという考えは、恐竜が再び出現すると科学者が騒ぐことと同じくらい非現実的だった。

 大恐慌を研究していたバーナンキは、いわば経済学の古生物学者だ。恐竜が現れたときにたまたまアメリカの経済を守る立場にいた彼が、恐竜に関する知識を元にさまざまな戦いに挑んだ。

――「例外的で緊急」という表現をあなたは繰り返し使っている。

 これはFRBが「例外的で緊急」と判断した場合、ほぼあらゆる金融機関に直接融資する権限を与える際に議会が使った表現だ。FRBはベアー・スターンズや米保険最大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)の件でこの権限を行使した。

「例外的で緊急」とは、簡単に言えば「どのようなことをしても」という意味だ。FRBはどのようなことをしても新たな大恐慌を回避すると決意した。その点は成功したと言えるだろう。

――バーナンキの任期は来年1月まで。再任を目指しているのか。

 本人は再任のために動いてはいないと言うだろうが、私は彼が再任を目指していると思う。

 もしバラク・オバマ米大統領が今すぐ決断を迫られたら、再任の可能性は高い。指揮官を途中で代えることのマイナス面は大きいからだ。まず、市場の不確実性を招いて金利が本来より高くなりやすい。さらに、オバマ周辺の意向で議長が代わったらFRBの独立性が弱まってインフレが起きやすくなるという懸念を、外国の投資家に抱かせかねない。

 しかし大統領は急いで決断しないだろう。今後数カ月で景気が悪化したときに、バーナンキをお払い箱にするという選択肢を残しておきたいからだ。

[2009年8月26日号掲載]

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