「年俸1億ドル」でシティのジレンマ
トレーダーの囲い込みは高リスク
その一方で、企業のオーナーである株主は苦しんでいる。これらのヘッジファンドはどこも、会計事務所への支払いなどの経費を加えることで巨額の損失を計上しており、株価は低迷している。
株主はヘッジファンドの有能なトレーダーの仕事に多額の資金を出しているのに、見返りはほとんどない。だから、シティグループのフィブロのようなジレンマがもち上がる。
1億ドルの報酬を受け取れなかった場合、ホールは退職するか、仲間のトレーダーを連れて他社に転職するだろう。そうなれば、シティグループ(と株主)は彼が生み出せるはずだった利益を得られなくなる。とはいえ、金融業界の常識を考えれば、ホールがフィブロに留まっても、株主が恩恵を被れる可能性は低い。
しかも、どんな敏腕トレーダーも一瞬にして運命が暗転することはある。この数年注目を集めていたヘッジファンドのアティカス・キャピタルは8月半ば、大半のファンドを閉鎖すると発表した。すでに巨万の富を手にしている創業者の一人が、投資の失敗を経て事業継続の意欲を失ったためだ。
シティグループのCEO(最高経営責任者)のビクラム・パンディットは、株主から集めた大金を使って人気トレーダーをつなぎとめることが利益になるとはかぎらないと理解すべきだ。
シティグループは以前にも、ヘッジファンドのオールド・レーン買収に8億ドル近くを費やした。目覚ましい投資成績を収めてきた創業者たちを囲い込める特権に投資したのだ。
1年後、オールド・レーンは巨額の損失を出し、シティグループはオールド・レーンを閉鎖した。オールド・レーンの共同創業者の一人は、その後シティグループのCEOとなるパンディットだった。