「年俸1億ドル」でシティのジレンマ
公的資金で生き延びた経緯に加え、利益の大半が報酬支払いに消える茶番を考え直せ
株主不在? シティグループはオバマ政権から幹部報酬を引き下げるよう圧力を受けているが Shannon Stapleton-Reuters
アンドリュー・ホールは、米金融大手シティグループのエネルギー関連子会社フィブロで巨額の利益を稼ぎ出してきた敏腕トレーダー。アメリカでは今、シティグループが彼に約束した巨額の報酬の支払いをめぐる議論が沸騰している。
ホールはシティグループとの契約に基づき、1億ドルのボーナスを要求している。だがシティグループは多額の公的資金の注入を受け、株の一部を納税者に保有されている立場。支払いを実行するには、オバマ政権からウォール街の高額報酬の引き下げを一任されている弁護士ケネス・ファインバーグの許可を得なくてはならない。
ファインバーグは、税金の支えがなければ100ドルのボーナスさえ払えない会社が、1億ドルの報酬を支払うのが適切かどうかを判断することになる(シティグループはホールに来年の報酬を現金でなく株式で受け取るよう説得しているが、交渉はまとまっていない)。
もう一つ、ファインバーグが考慮すべき問題がある。実質的なヘッジファンドであるフィブロを保有することが、本当にシティグループの株主のメリットになるのかという点だ。
シティグループの経営陣は、フィブロが長年、高収益を上げてきたことを理由に保有を主張している。フィブロが利益を上げるほど、シティの株主(公的資金注入に乗り気でない納税者を含む)にもプラスになる、という理屈だ。
ヘッジファンドの収益は社員の懐へ
だが、私たちは過去数年の経験から、ヘッジファンドの利益が必ずしも株主に還元されるとはかぎらないと知っている。
ヘッジファンドやプライベート・エクイティ(未公開株)ファンド(PEF)などのオルタナティブ資産運用会社は、一言でいえば社員の報酬を生みだす道具だ。
小売り大手のウォルマートのような業態の場合、収益の大半は商品の仕入れに充てられ、残りの20%ほどが人件費になる。一方、ウォール街の投資銀行は収益の50~55%を報酬に充てることが多い。
ところが、人材が唯一の財産ともいえるヘッジファンドやPEFの世界では、その割合はさらに高まる。収益の大半が社員の報酬や手当、豪華なオフィスや絵画、専用ジェット機など従業員を喜ばせるものに費やされている。
それでも、創業者が所有しているヘッジファンドやPEFなら、オーナーは好調なときは利益を独占し、失敗したらそのツケを払うというリスクを背負う。わずかなミスで会社が吹き飛ぶ可能性もある。
問題は、金融バブルが最高潮に達していた07年、オルタナティブ資産運用会社が相次いで株式公開に乗り出したことだ。株の保有者が大企業や個人投資家に変わっても、オルタナティブ資産運用が危険なゼロサムゲームであることに変わりはない。ただし、企業の所有者と従業員の力関係のバランスは崩れた。
ブラックストーン・グループやオク・ジフ・キャピタルマネジメント、フォートレス・インベストメント・グループのように新たに株式公開したヘッジファンドでは、社員が収益のほぼすべてを受け取り、株主にはほとんど還元されていない。
複雑な収益報告書を精査すると、収益の大半が社員の懐に納まっていることは明らかだ。ブラックストーン・グループの第2四半期の収益報告書によれば、09年上半期の収益、4億5100万ドルのほぼすべてにあたる4億4500万ドルが、人件費と諸経費に費やされたという。しかも、07年のIPO(新規株式公開)の際に義務付けられた社員への高額報酬は計算に含まれていない。
オク・ジフ・キャピタルマネジメントの09年上半期の収益は1億9300万ドル。そのうち報酬と諸経費が1億7180万ドルに達する。同じくフォートレス・インベストメント・グループでも、2億6100万ドルの収益のうち、2億6000万ドルが報酬と諸経費だ。