最新記事

米社会

悪者にされた金持ちたちの大逆襲!

経済危機で階級対立が激化するなか、庶民に味方するメディアの贅沢バッシングに耐えかねた超富裕層が抗議の声を張り上げ始めた

2009年8月6日(木)14時30分
ジョニー・ロバーツ

四面楚歌 金持ちというだけで詐欺師扱い、ウォール街でボーナスをもらえば泥棒扱い Jetta Productions/Getty Images

 ここのところメディアをにぎわし始めた「階級戦争」で、超富裕層を主な読者層とする月刊誌ロブ・リポートが猛反撃を開始した。ブレット・アンダーセン編集長は6月号に「贅沢の意味を考える」と題したエッセーを書き、「マスメディア」が「富裕層と彼らに奉仕する産業を悪魔に仕立て上げている」と非難した。

 ロブ・リポートの読者層と広告主に対する敵意は「最近のメディア現象になっており、落胆を禁じ得ない」と、アンダーセンは書く。彼に言わせれば、大衆の人気を取ろうとするポピュリズムは、「ラグジュアリー産業が、経済ばかりでなく知的にも技術的にも文化的にも社会を豊かにしてきた事実を見過ごしている」。

 これは反撃の第2弾。5月号でもアンダーセンは、富裕層に対するメディアの「悪意に満ちた偏見」について書いている。

 経済危機は、階級対立を表面化させている。新聞と大衆誌は1年以上前から、所得上位1%のアメリカ人に不況がどんな社会的、心理的影響を与えてきたかを事細かに報じてきた。

 次にやって来たのは、禁欲時代の到来を告げる見出しの津波だ。
「贅沢の嘆き──虚栄は終わった」(ウィメンズ・ウエア・デイリー紙)、「階級の解散──最先端の富裕層を襲うステータス喪失不安」(アトランティック誌)、「不況でも買わずにいられない──匿名ラグジュアリー・ショッパーの真実」(ニューヨーク・タイムズ紙)......。同時に、大恐慌来のポピュリズムも一大政治勢力として台頭してきた。

 アンダーセンは本誌の取材に対し「贅沢バッシング」を嘆いた。「多くのニュースメディアの報道はバランスを欠いている」と、アンダーセンは言う。「富裕層すべてが、650億ドルのねずみ講詐欺で捕まったバーナード・マドフと一緒くたにされ、ウォール街でボーナスを受け取る者は誰でも不正をしていると思われる」

自家用ジェット機は悪の権化

 ロブ・リポートの6月号は、世界の超高級ブランドの経営トップたちの短いエッセーも載せている。「われわれが扱う業界の人々が意見を表明できる場を提供しようと思った」と、アンダーセンは言う。「そして読者にも、彼らが買ったり旅行したりすることが経済の支えになることを理解してほしかった」

 寄稿した経営者のなかには、マスメディアのことを富裕な生き方の意味さえ分かっていない粗野な存在だと思っている人もいる。「ニューヨーク・タイムズは、景気後退期にスターバックスのコーヒーを買うことが贅沢だと思っている」と、英高級宝飾店グラフのアメリカ支社のCEO(最高経営責任者)、アンリ・バルギルジアンは書く。

 彼は、宝飾専門店3万店の年商は250億ドルにのぼると、その経済効果を強調する。「個人消費や法人税収のなかでもかなりの比率を占めるし、雇用に貢献していることは言うまでもない」

 一方、最高級シャンパンメーカー、クリュッグのマルガレート・エンリケスCEOは、贅沢の優れた長所を絶賛する。「ラグジュアリー業界は、世界の前途を照らしてきた」と彼女は言う。高級な商品やサービスは「新しいアイデアや方向性」を生み出し、自力で革新を起こしたり業界の新基準を打ち立てる資力がない企業をも潤してきたのだという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

次回関税協議で具体的前進得られるよう調整加速を指示

ワールド

イスラエル、ガザで40カ所空爆 ハマスが暫定停戦案

ワールド

ロープウエーのゴンドラ落下、4人死亡 ナポリ近郊

ビジネス

中国、サービス業さらに対外開放へ AI産業応用を推
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判もなく中米の監禁センターに送られ、間違いとわかっても帰還は望めない
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 5
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 6
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 7
    ノーベル賞作家のハン・ガン氏が3回読んだ美学者の…
  • 8
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 9
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 10
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 7
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 8
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中