中国の消費は世界を救えない
一方、個人の貯蓄率はアメリカでは5%にも満たないが、中国は30%。中国人の大半は年金がなく、医療費も前金で自己負担しなければならない。いざというときの備えの必要性は、アメリカよりはるかに深刻だ。
広東省の人々は、現実が統計で見るよりはるかに危なっかしいものだと分かっている。「多くの工場経営者と話をしたが、6週間以内に受注が増えないと工場は立ち行かなくなると言っていた」と、広東省社会科学院・地域経済競争力研究センター主任の丁力(ティン・リー)は言う。
中国は過去、景気刺激策で成功を収めてきた実績がある。97~98年のアジア通貨危機のときも、01年のITバブル崩壊のときもそうだ。だがいずれの場合も、政府支出は応急処置にすぎず、世界経済(と中国の輸出)が回復するまでの時間稼ぎをすればよかった。
だが今度は事情が違う。アメリカには景気回復の兆しが見える。アメリカほどではないが、欧州もそうだ。だがそれでも中国の輸出は減り続けている。ということは、今回解雇された2000万人の労働者が再雇用されることもないだろう。スイスの銀行UBSの推定では、失業者の数は今年さらに1500万人増える見込みだ。
楽観主義者は、中国政府がリッチであることに期待を掛ける。「中国共産党は今や世界で最も資金が潤沢な金融機関だ。財源に制約はない」と、証券会社CLSA(上海)のエコノミスト、アンディ・ロスマンは言う。中国経済に強気なことで知られる彼は、来年の成長率を7~9%と予測する。
信用危機の渦中では一党独裁に一定の強みがあると考えるエコノミストが多い。政治的・法的な制約を受けずに支出を増やせるからだ。中国最大級の国有銀行のある幹部は言う。「政府がもっと貸し出しを増やせと言うので、そのとおりにした」
まだ足りない消費の原資
中国は、社会的な安全網をつくり始めている。社会保障が整って将来への不安が少なくなれば、人々は貯蓄をする代わりにもっと消費するようになる。数カ月前、中国政府は1240億ドルを使って公的医療保険を整備し、今後3年間で国民の90%に行き渡らせることを決めた。
だが米投資銀行大手モルガン・スタンレー・アジアのスティーブン・ローチ会長が指摘するように、その額は1人当たりたった50ドル。「ほんのはした金」だ。また中国の社会保障基金の資産規模は820億ドルで、労働者1人当たり100ドルにも満たない。この額は倍増させるべきだし、中国にはそれだけの金があるとエコノミストたちは考えている。
だが、中国政府は06年から社会保障制度を充実させると言い続けながら何もしてこなかった。国民も、2011年までに国民皆保険を実現するという温家宝(ウエン・チアパオ)首相の言葉を信じていない。
もちろん、所得が増えれば消費も増えるだろう。中国の1人当たりGDPはまだ2000ドルにすぎない。だが、それには付加価値の低い製造業から世界に通用する中国ブランド製品の生産へ産業構造を進化させる必要がある。
いま中国の輸出品の大半は単に組み立てただけのもので、設計や企画は外国のもの。利益の大半、そして消費の原資となる給与の大半は国外に行ってしまう。
広東省のあちこちで、政府関係者や工場経営者たちはより洗練された製品を作るための設計や製造技術を研究している。だが統計によれば、この地域で生産される製品の約60%は付加価値の低い組み立て加工製品だ。
中国が先進的な輸出大国になるまで、中国経済は国家の助けに頼るしかないだろう。
[2009年7月 1日号掲載]