米景気対策「効果なし」論の勘違い
アメリカ人に忍耐のススメ
財政出動による景気刺激策の効果が経済に浸透するまでには常に時間がかかるものだが、たとえ2月や3月の時点で政府が経済に莫大な資金を注入していたとしても失業率を大幅に引き下げることはできなかったかもしれない。
そもそも、経済政策の短期的な成果を評価する上で失業率は最良の基準とは言えないというのが、いまオバマ政権の景気対策法を失敗だと批判している一部論者の持論だったはずだ。ブッシュ政権の経済政策チームは、01~02年の財政政策と金融政策の組み合わせが絶大な効果を発揮したおかげでアメリカが景気後退を脱したと自画自賛したが、01年11月に景気が回復し始めた後も2年近く、雇用の数は減り続けた。
レーガン政権と父ブッシュ政権で働いたこともあるエコノミストのブルース・バートレットは最近、フィナンシャル・タイムズ紙に寄稿して、追加の景気刺激策に反対し、アメリカに忍耐を呼び掛けた。14兆ドル規模の巨大な経済の進路を変えるには時間がかかって当然だ、というわけだ。
現在の景気対策は完璧とは言えないかもしれないが、「効果を発揮するまでには時間が必要」だとバートレットは指摘している。「辛抱できないせいで、今年の失業率を引き下げるのに役立たないばかりか、遠くない将来インフレに火を着けかねない政策を採用することは避けるべきだ」
私たちのように職に就いている幸せ者が忍耐を説くのは簡単だと言われるかもしれないが、政府がどういう政策を取ろうと、今回の景気後退から抜け出すまでに時間がかかることは間違いない。長く厳しい景気後退のせいで、アメリカ経済の潜在的生産能力と実際の経済生産の規模の間に大きなギャップが生まれている。その巨大な落差を政府の景気刺激策だけで埋めることは不可能だ。
アメリカには、つらいリハビリの日々が待っているようだ。もっと貯蓄に励み、借金に大きく依存した体質を解消し、混乱を収拾しなければならない。そうやって初めて、金余りと過剰消費を原動力にした経済から卒業できる。もっとも、それに代わる経済の新しい原動力はまだ見えていないが。