最新記事
アメリカ経済FRBは超・監督機関を目指せ
ベン・バーナンキ議長率いるFRB(米連邦準備理事会)は、金融危機の再発を防ぐために強力な権限を持つ監督機関に生まれ変わるべきだ
衛星中継を通じてシカゴ連邦準備銀行の会議で発言するバーナンキFRB議長(09年5月7日) John Gress-Reuters
金融危機への対応で連邦政府の積極的介入を打ち出し、FRB(米連邦準備理事会)に革命をもたらしたベン・バーナンキ議長だが、実際はとても謙虚な男だ。
ばらまきを揶揄する「ヘリコプター・ベン」という呼び名や、約1兆ドル規模のFRBの貸出枠を開け放ったという悪評は、彼には似つかわしくない。忘れられがちだが、彼はかつてアラン・グリーンスパン前議長と同じような保守的な経済学者で、ミルトン・フリードマンの信奉者でもあった。
バーナンキは、金融危機が過ぎれば、FRBは以前のように金融政策を監視するだけの役割に戻るべきだとの考えを示している。FRBが新たに得た権限の多くは放棄されるべきというのが、彼の考えだ。米政府が「国有化」で取得した銀行株を5年ほどで放出しようとしているのと同じだ。
しかし新しい金融規制案――ティモシー・ガイトナー財務長官が来週あたりに発表する見込みだ――から判断すると、古いFRBに逆戻りすることなないだろう。オバマ政権の関係者はFRBを強力な規制機関にすることを考えているようだ。
場合によっては、証券取引委員会(SEC)や商品先物取引委員会(CFTC)も組み込まれるかもしれない。ガイトナーは5月18日、ニューズウィーク主催の昼食会で、数は多いが権力の弱い機関が市場に裏をかかれるという「とてつもなく複雑で分断された構造」を「強固なものに変える」ことに力を注ぐと話した。
FRBは、下院金融委員会のバーニー・フランク委員長がこの夏にも設立を目指す「体系的リスクの監督機関」の候補でもある。フランクの広報官スティーブ・アダムスクによれば、フランクは新しい監督機関を「傘下に収め」、金融大手の問題を解決する「決定権限」を持った機関にはFRBがふさわしい考えているという。「FRBはそのマクロ経済的な役割から、こうした問題に最良の視点を備えている」と、アダムスクは言う。
「大きすぎて馬鹿にできない」機関に
ある意味で理にかなっている。金融機関の「大きすぎて潰せない」問題や、グラス・スティーガル法に代わる法律の欠如を解決するためには、政府機関を「大きすぎて馬鹿にできない」ほど強化することだ。それにふさわしい機関はFRBしかない。
サブプライム問題はあまりにも多くの金融部門にまたがり、どの監督機関もすべてを管理することはできなかった。議会はこの事実を、FRBに住宅ローンの監督権限を与えた94年には把握していた。だが残念ながら当時のグリーンスパン議長は自由主義者で、自ら告白しているように市場には自浄作用があると信じていたため、ルール作りを怠った。規制の欠如は、証券化という魔物が世に放たれてから随分後のバーナンキが昨年夏に「規制Z」を実施するまで続いた。この規制は、十分な必要書類のないローンを禁止するというような、ごく当たり前のルールだ。
その他の機関でウォール街の手綱を引けそうのはSECくらいだ。SECとCFTCの合併も効果がありそうだ。金融派生商品の元トレーダーで証券取引法の専門家のランク・パートノイによれば、危機の再発防止には2つの対策が必要だ。
まず、金融派生商品の情報公開を積極的に行うこと。これにより企業は購入した金融商品の内容を把握し、投資家は企業の帳簿がどうなっているかを知ることが可能になる。
2つ目は、不正行為への取り締まりの厳格化だ。企業は不正を隠匿すれば起訴される恐れが生じる。これはFRBとSEC、CFTCが力を合わせることによってのみ可能となる任務だ。ただしFRBが通常の主導権を持つ必要がある。
ただしこうした動きは、新たなリスクを生む可能性もある。バーナンキや彼の後継者をウォール街のお目付け役に据えれば、多くの敵を生み、新しい監督機関の効果を低下させることにもなりかねない。
それでもバーナンキ率いるFRBはすでに、ある程度は世界経済を救う役割を果たした(バーナンキの批判派は恐るべきインフレ時代が到来するとしているが)。FRBの次の任務は、未来を救うことだ。