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アメリカ経済オバマ赤字大統領の無責任な賭け
歳出削減と増税を先延ばしにする赤字垂れ流しの財政運営は世界経済を破綻させかねない
人気の理由 オバマはほぼすべての国民に減税と財政支出の拡大を約束した(2月26日、2010年度予算案に群がった報道陣) Stelios Varias-Reuters
国の借金をいくら増やすと、大統領は「無責任」と非難されるようになるのか。どうやらその限度は、バラク・オバマ米大統領が想定する額さえ軽く許容するほど巨額らしい。5月11日にオバマが詳細を公表した2010年度(09年10月〜10年9月)予算教書は、政治的ご都合主義と経済的ギャンブルの典型といえる内容だった。
オバマの予測では、10〜19年のアメリカの財政赤字は累計で7兆1000億ドルに達する(ピークは09年度は1兆8000億ドル)。この結果、19年までに米政府の累積赤字額の対GDP(国内総生産)比は08年の41%から70%に増える。80%を記録した1950年以来最悪の水準だ。10〜19年の累積赤字額が9兆3000億ドル、19年の対GDP比82%という議会予算局(CBO)の見通しもある。
だがそれもまだ甘いかもしれない。各種の予測によれば、医療制度改革には今後10年で1兆2000億ドルかかりそうだが、オバマは今のところ6350億ドルしか手当てしていない。国防予算の削減も報じられているが、国外の脅威が小さくならないかぎり軍事費と赤字が減る保証はない。
それなのに、批判を萎えさせる禅僧のようなオバマの能力のおかげか、この莫大な財政赤字に注意を払っているのは小うるさい共和党議員ぐらい。誰もが現在の経済危機に目を奪われ、あと2〜3年は税収減と景気対策のための巨額の財政支出が容認されそうだ。誰も、莫大な赤字がいつまでも続くとは思っていない。
借金増は政治的な「逃げ」
オバマの人気がこれほど高い理由の1つは、ほぼすべての国民に減税と政府支出の拡大を約束しているからだ。年収25万ドル以上の層を除く「勤労世帯」の95%が減税対象になる。基礎研究支援を倍増し、高速鉄道網の建設にも意欲を示している。もちろんオバマはこういった政策を実現できる。さらに借金を増やせば、だが。
借金を増やすのは政治的な「逃げ」だ。オバマは、歳出削減か増税かという選択を国民に迫るのを避けている(現在の赤字水準を考えれば、おそらくその両方になる)。
確かに1961年以降、5年間を除いてアメリカの財政は常に赤字を出してきたが、赤字額はGDP比50%以下に抑えられてきた。年収10万ドルの世帯が借金総額を5万ドル以下に抑えるようなものだ。このレベルなら経済への悪影響は限定的だった。だが過去のトレンドから大きく逸脱しかねないオバマの巨額赤字は、アメリカ経済の未来を大きく脅かしかねない。
すべてがうまくいっても、国債の利払いによって増税と歳出削減の圧力が一段と高まる。場合によってはさらに借金を増やす必要に迫られる。CBOの予測によれば、19年時点で利払いが歳出に占める割合は、08年の2倍にあたる16%に達する。これでは民間企業の投資意欲がそがれ、経済成長は減速しかねない。
最悪の場合、財政赤字の急増が新たな金融危機を引き起こすかもしれない。危険なのは、「アメリカが(米国債を)低利で売れなくなることだ」と、元CBO局長でエコノミストのルドルフ・ペナーは言う。
「マケイン大統領」だったなら
雲行きは怪しいが、このような事態はまだ起きていない。内外の投資家は「安全な」米国債を好んできた。だが国債の供給過剰やインフレ不安が現実になれば、その信用が失墜する日がくるかもしれない。そうなれば国債の価格は急落し、利回りは急騰する。米国債の半分は外国人が保有しているから、世界が大打撃を受けることになる。
オバマの予算はいたずらに「痛み」を先送りにしているに過ぎない。今のところうまくいっているように見えても、将来のリスクは増している。現在の経済危機が示すように、後先を考えない政策は最後にはしっぺ返しを喰らう。
不思議なのは、こうした問題がほとんど無視されてきたことだ。昨年の大統領で共和党のジョン・マケイン上院議員が勝利してオバマと同じ予算案を提出したら、非難の嵐が起きていたはずだ。「マケイン大統領はわれわれの未来を抵当に入れるつもりだ」と。
オバマも同じように厳しい基準で評価されるべきだ。