楽観か悲観か マーケットの深層を読む
株式相場も動かす年1回の「株主への手紙」で、著名投資家が明かした自分の失敗と将来の展望
原油下落で大損 株の神様バフェットでさえ08年にはまちがいを犯した
Carlos BarriaーReuters
先週、12年ぶりの安値をつけたNYダウに反転の兆しはあるのか。恐怖に凍りついたままの信用市場を再生するには何が必要なのか。著名投資家からヘッジファンドの専門家、ノーベル賞経済学者まで、米経済界の「予言者」に聞く。
投資会社バークシャー・ハサウェイのCEO(最高経営責任者)兼会長で著名な投資家のウォーレン・バフェットが年に1回株主にあてて書く「株主への手紙」は、いつも投資家の注目の的だ。相場を動かすこともある。今年の手紙では、現在の厳しい経済環境についての見解を披露した。以下、抜粋を紹介する(バフェットは、本誌の親会社ワシントン・ポストの取締役も務めている)。
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現経営陣が就任して以降の44年間、バークシャー・ハサウェイの株価は19ドルから7万530ドルに上昇した。毎年複利で20・3%成長した計算だ。しかし昨年は、バークシャー株にとってもスタンダード&プアーズ(S&P)500社株価指数にとっても、この44年で最悪の年だった。社債や地方債、不動産や商品などの投資対象もさんざんだった。昨年末までにあらゆる種類の投資家が、バドミントンの試合に紛れ込んだ小鳥のように痛めつけられ、混乱した。
昨年は、世界有数の偉大な金融機関に存亡の危機が迫る事態も相次いだ。おかげで信用市場は機能不全に陥り、いくつかの極めて重要な側面においては間もなく完全に機能を停止した。私が若いころにレストランの壁に貼ってあったモットーが、アメリカ中の合言葉になった。「神は信用する、ほかの連中は現金で払え」
信用危機に住宅価格や株価の暴落も加わって、昨年7〜9月期までにはアメリカ全体が恐怖にのみ込まれて身動きできなくなっていた。企業活動の急減速が後に続いた。それは、私がかつて見たことがないほどのペースで今も悪化し続けている。アメリカと世界の大半は、負のサイクルにとらわれてしまった。恐怖が企業活動を縮小させ、それがさらに恐怖をあおる。
この縮小スパイラルを止めるために、アメリカ政府は巨額の対策を打ち出した。ポーカーでいえば、財務省もFRB(連邦準備理事会)も「すべてを賭けた」状態だ。従来ならマグカップで配っていたような経済の薬も、今は樽ごと配っている。前代未聞のこの大量処方は、将来ほぼ確実にありがたくない副作用をもたらすだろう。副作用の正確な性質は誰にもわからないが、一つ考えられるのは大インフレの襲来だ。
主要産業は連邦政府の支援に依存するようになり、市や州もやがて仰天するような金の無心をするようになる。連邦政府からの乳離れは、大きな政治課題になるだろう。彼らは、決して自分からは自立しようとしないからだ。
どんな副作用があろうと、金融システムの完全な崩壊を防ぐには政府による迅速かつ強力な対策が不可欠だった。もし金融システムが崩壊していれば、経済のあらゆる分野に破壊が及んでいただろう。好むと好まざるとにかかわらず、金融界と実体経済、そしてあらゆる階層の人々の暮らしは、いわば「一つの同じボート」に乗せられている。
しかしこうした逆風のただ中にあっても、アメリカは過去にこれよりはるかにひどい艱難辛苦と戦ったことを忘れてはならない。20世紀だけに限っても、二つの世界大戦を戦った(うち一つは、最初は敗色濃厚にみえた)。金融危機と景気後退も10回を超える。猛烈なインフレのせいで、80年には最優遇金利が21%に達した。30年代の大恐慌では、15〜25%もの高失業率が何年も続いた。
アメリカはこれまでも嫌というほど多くの試練を与えられ、そのすべてに打ち勝った。アメリカ人の生活水準は20世紀の間に7倍近く向上し、ダウ工業株30種平均は66 ドルから1万1497ドルに上昇した。この成果を、人類の生活がほんの少ししか進歩しなかったほかの何十もの世紀と比べてみてほしい。平坦な道ではなかったが、われわれの経済システムは長期にわたって見事に機能してきた。それは、他の経済システムとは比べものにならないほど人間の潜在能力を引き出してきたし、今後もそうあり続けるだろう。アメリカ最高の日々は、まだ先に待ち受けている。