銀行危機に効く魔法のプラン
値上がりまで資産を保有
ホームズ案では不良資産処理を速める一方、納税者の負担を遅らせる。不良資産は一夜にして一掃され、健全化した銀行は投資家を引きつけ、融資を再開する。
暫定銀行は不良資産を08年末の簿価で買い取る。ただし、それは便宜上の価格であって、暫定銀行は市場での適正価格が確定するまで何カ月でも何年でも不良資産をかかえ込む。
政府なら不良資産の価値が上がるまでじっと待つことができる。暫定銀行は対象の銀行から不良資産と同額の債務を引き受け、民間の資産運用会社に債権者と交渉させる。政府は銀行のワラント(株式取得権)を保有することになるため、銀行の株価が上がれば納税者が恩恵を受ける可能性がある。
最もむずかしいのは適正な資産価格の設定だが、暫定銀行を設立すれば時間がかせげる。「今すぐ適正価格を決めるのは大学入試に似ている」と、ホームズは言う。「時間内では終わらない。誰も正しい数字が出せないまま、銀行は手術台の上で息絶えるだろう」
納税者が負うリスクも大きいが、それでもPPIFよりホームズ案のほうがいいと、ニューヨーク大学スターン経営大学院のエドワード・アルトマン教授は言う。「いま売却するより、債務削減の奨励策を考案したほうがいい」
ホームズ案は魔法のようなものだという批判もある。FDICのベアーが言うように「資産は空中に簡単に移せるものではない」。だが保守派(および民主党の数人)が求めている時価会計の凍結ほど非現実的な話ではない。時価会計をやめれば、金融機関に資産の価値を捏造させることになる。
それに、深刻な経済危機には多少の魔法が必要だ。33年、米財務省は紙幣の上部に印刷される「連邦準備券」に一時的に「銀行」の文字をつけ加えた。それによって金本位制停止に伴う危機を切り抜けた。
今回も、複雑な銀行問題の解決法は実は簡単なはず。国民が安心して眠れればそれでいい。
[2009年3月25日号掲載]