最新記事

知られざる在日米軍の素顔<br>第3章──ゲート2通り

在日米軍の真実

海兵隊の密着取材で見た
オキナワ駐留米兵の知られざる素顔

2010.03.31

ニューストピックス

知られざる在日米軍の素顔
第3章──ゲート2通り

「レイプ」や「ヘリ墜落」でのみ語られる沖縄の兵士たち
極東の楽園でイラクや北朝鮮の幻影と戦う彼らの真実とは

2010年3月31日(水)12時03分
横田 孝(本誌記者)

基地との共存 嘉手納基地付近の民間施設に描かれた壁画 Peter Blakely-Redux


普天間基地の移設問題で、在日米軍の存在が再び問われている。沖縄での犯罪や事故といった問題のみがクローズアップされてきた在日米軍だが、彼らの勤務実態や日々の生活はあまり伝えられない。米軍再編交渉を目前にした2005年春、海兵隊の野営訓練から米空軍F15戦闘機飛行訓練まで、本誌記者が4か月に渡る密着取材で見た在日米軍の本当の姿とは──。


 沖縄市の嘉手納空軍基地は、基地自体が一つの都市を成している。アメリカ郊外の完璧なレプリカといっていい。面積は東京都千代田区のほぼ2倍。アメリカ風の名称がつけられた道路を、迷彩服の歩行者が行き交う。祖国を離れた米軍兵士にとって、第2の故郷のような場所だ。

 居住エリアに足を踏み入れれば、芝生の前庭を備えた家がずらり。小さな子供がすべり台や3輪車で遊び、少年たちは父親とフットボールを投げ合う。母親たちは遊ぶわが子を横目で見ながら、おしゃべりに熱中している。

 基地内には、アメリカ流の生活に欠かせない「舞台装置」がそろっている。スーパーや学校、スポーツジム、病院、映画館、ボーリング場、バーガーキングやタコベル。18ホールのゴルフ場まである。
 他の都市と同じく、2万2000人の住民の職業はさまざまだ(うち7200人は軍用機のパイロットや整備兵など)。軍の法律問題を扱う弁護士や財政面を担当する経理専門家、コンピュータネットワークを管理する技術者もいる。

 第18航空団第44戦闘中隊に所属するF15戦闘機パイロット、ブランドン・ハフ中尉(28)のオフィスは、デスクにデルのコンピュータと書類トレイが整然と並ぶ快適な空間だ。世界最強といわれる戦闘機を超音速で飛ばすとき以外は「仕事の6割はデスクワークだ」と、所属中隊の経理を担当するハフは言う。他のパイロットも、物資の調達計画や日程の調整などの管理業務をこなしている。

 オフィス勤務でないときのハフは、沖縄南東部の沖合で実戦を想定した訓練に従事する。朝鮮半島や台湾海峡の情勢に大きな変化はないが、ハフらが実戦に参加する可能性は決して少なくない。
 空軍は00年以来、極東における抑止力として駐留に力点をおく姿勢を見直し、緊急時の即応能力を高める方針に移行している。日本に駐留する空軍兵士が、紛争地へ一時的に派遣されることも想定される。

 「われわれの任務は大統領の要求に従うこと。リスクは承知だし、ときには命の危険も伴うかもしれない」と、ハフは言う。「命を危険にさらす気はないが、その覚悟があるかと聞かれれば、答えは『イエス』。会社員と同じで、上司の命令に従うだけだ」

 確かに軍人は、商社の駐在員のようなものだ。辞令のままに国内外のあちこちへ赴任する日本人商社マンと同じく、沖縄など日本各地の基地にいる米兵も、自分で行き先を決めたわけではない。「異動願い」が通るとはかぎらないし、大半の兵士は2、3年もすれば別の基地へ送られる。

 軍人と一緒にやって来る妻たちも、基地内で仲間をつくる。夫の所属部隊ごとに集まる場合がほとんどで、家族ぐるみで交際し、夫たちが長期の派遣活動に参加しているときは支え合う。「お互いに面倒を見るの」と言うのは、ハフの妻のシェリー。「司令官の奥さんも電話をくれて、『調子はどう?』とか『買い物に行くけれどいるものはない?』と聞いてくれる」

 彼女たちも、日本の商社マンの妻と似た立場におかれている。「夫の昇進の助けにはなれないのに、昇進の邪魔になることはいくらでもある」と、あるF15戦闘機パイロットの妻は言う。家族や夫婦の問題に気を取られる兵士は、隊の士気を低下させるとみなされ、上官の不評を買うという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中