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アップル番記者の罪と罰
「アップルの情報隠しに加担する記者の腐敗ぶりを容赦なく批判した痛快なコラム」(本誌・山際博士)
「番記者とは、取材する特権と引き換えに悪魔の契約を交わす『使えるバカ』----というのは日本でも似たような例が思い浮かぶ話。メディアから流される情報に受け手はどのような批評眼をもって接するべきか、この記事を読むと少しわかる」(本誌・竹田圭吾)
「あっぱれ!の一言。こういう記事を読者に紹介できることこそ、この編集部で働く醍醐味だと(個人的には)思っています」(本誌・小暮聡子)
スティーブ・ジョブズの病状隠しに加担した「ちょうちん持ち」は自覚せよ
アップルのスティーブ・ジョブズCEO(最高経営責任者)は半年前から体調がかなり悪そうに見えた。しかし同社がジョブズの健康問題を認めて彼が半年間の休養に入ると発表したのは、今年1月14日のことだ。
ジョブズの健康に関してアップルが投資家を欺いたという批判が出ている。アップルはなぜこれほど長い間ごまかし続けることができたのか。それは、悲しいかな、メディアがごまかしに加担してきたのである。
メディアは単にこの件を報じなかっただけではない。誰だって他人の健康を詮索するのは嫌だし、できればやりたくない。だがメディアは今回、ネット上で沸き起こった議論をアップルが抑え込む手助けをした。
私は1月14日にニュース専門局CNBCの討論番組に出演し、CNBCはアップルの擁護者を自任するシリコンバレー支局長を通じて事実の隠蔽に加担したと、指摘した。昨年12月にガジェット情報サイト「ギズモード」のブログが、年初恒例のイベント「マックワールド」にジョブズが欠席するのは「健康が急速に悪化している」からだと書いたとき、この支局長は必死に反論した。CNBCのニュースサイトには「ジョブズは(まだ)元気だ」という見出しが躍った。
だがブログは正しく、CNBCはまちがっていた。番組の中で私は、支局長はギズモードと視聴者に謝罪すべきだと言った。このため私はCNBCのブラックリストに載ったはずで、二度と出演依頼は来ないだろう。
この騒動で浮かび上がった重要な問題は、メディアがアップルをどう報じるかということだ。企業の広報担当者が嘘をつくことはあるが、彼らはそれで給料をもらっている。メディアが加担するかどうかは別の話だ。
メディアにとってアップルは、いわば「企業版オバマ大統領」。まちがいを犯すはずがない会社だ。ちょうちん記事の多いIT業界関連の報道のなかでも、アップルへの配慮は突出している。記者たちはアップルの失敗を見逃すだけでなく、同社の代わりに謝罪や弁護も買って出る。記者会見で記者が拍手したり歓声を上げる光景を見たことがあるだろうか。アップルではいつものことだ。
ジョブズは事実でないことを信じさせる「現実歪曲空間」として知られている。この半年間は過去最悪の歪曲だった。少しでも常識のある人なら、昨年6月の時点で彼が健康な53歳ではないとわかったはず。それでもアップル擁護者たちは、事実をねじ曲げてジョブズが健康だと言い張った。
今回アップルがジョブズの体調悪化を認めたのは、彼が「ホルモンバランスの異常」を患っているというばかげたメッセージを出してからわずか9日後のこと。突然の方針転換でアップルは信用を落とすかとCNBCで聞かれた私は、そもそもアップルに信用などないと答えた。取材の電話に「ノーコメント」と答えることを「企業コミュニケーション」と考えるような会社だ。どんな質問をしても、意味のないセンテンスを繰り返すこともある。
悪魔の契約交わす「使えるバカ」
アップルの企業文化の根幹には、CIA(米中央情報局)型の異常な秘密主義がある。同じプロジェクトに携わる開発チーム同士が互いに何をしているかを知らされない。アップルは偽情報を流したり、気に入らない人物を締め出したりするのもうまい。新興宗教が家電業界に進出したようなものだ。
そんなアップルと「悪魔の契約」を交わす記者がいる。ジョブズに取材する特権と引き換えに、アップルを批判しないことに暗に同意する。最初は「ジョブズに独占取材!」と喜ぶが、やがて不利な契約だと気づく。
こうした取材にはほとんど価値がない。お決まりの退屈なコメントを聞かされるだけだ。「秘密クラブ」の会員になるのは気分がいいが、実際には偽情報を流す手段として利用されている。アップルにとってその手の記者は「使えるバカ」にすぎない。アップルがジョブズの病気を認めたとき、広報部の「友人」たちは「ノーコメント」を決め込み、ごまかしの責任を手先のメディアに押しつけた。
哀れなのは例のCNBCの支局長だ。彼のジョブズ独占インタビューはまるでゴマすり取材の研修ビデオだった。彼は今、アップルは無責任で嘆かわしいと激怒しているらしい。だがアップル社内の「友人」はすでに次の「使えるバカ」を探している。シリコンバレーのメディアに、カモはいくらでもいる。
[2009年2月18日号掲載]