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デービッド・キャラダイン(アメリカ/俳優)
アクション映画2部作『キル・ビル』で再び輝いた孤高の俳優
ミステリアス 映画『キル・ビル』シリーズで脚光を浴びたが、6月4日に映画撮影でバンコク滞在中に謎の死を遂げた。享年72歳(写真は04年当時) Susana Vera-Reuters
あれほどの殺戮を見せつけられたら、ラブストーリーに転じるとは誰が予想できただろう。前作の『キル・ビル』でユマ・サーマンが演じたザ・ブライドは復讐の鬼だった。だが『VOL.2』はまぎれもない愛の物語。クエンティン・タランティーノ流ではあるのだが。
「前編ではザ・ブライドの無敵ぶりを描いた」と、監督・脚本のタランティーノは説明する。そして、にやりと笑って「ところが、あいにく無敵じゃなかった」。
美しき復讐の鬼も、つかみどころがないのに魅力的な男ビル(デービッド・キャラダインが好演)には弱かった。「ビルの正体、2人の関係、ビルの凶行の理由など、前編で残された謎を解き明かすときが来た」と、タランティーノは語る。
ビルはザ・ブライドの元恋人。ザ・ブライドが別の男と誓いを交わす結婚式の直前に、ふらりと現れる。再会シーンは静かでもの悲しい。場面の設定はマカロニウエスタンだが、タランティーノのせりふは冴えている。「どうやって私を探したの?」と問うザ・ブライドに、うすら笑いを浮かべたビルが言う。「きみの男は私しかいないから」
独占インタビュー「デービッド・キャラダインに聞いた舞台裏」
そして、この作品の「男」はキャラダインしかいない。ビル役を最初にオファーされたのはウォーレン・ベイティだった(撮影が始まる数週間前に辞退)が、キャラダインは自分こそビルのモデルだと信じている。「クエンティンは私の自伝から素材を借りて脚本を書いていた」と言う。「ウォーレンは偉大なスターだが、私は黙って出番が来るのを待っていた」
キャラダインによると、ベイティは「私はカンフー映画は嫌いだし、カネをもらってもサムライ映画なんか見たくない」と宣言し、タランティーノと決別。キャラダインに役が回ってきたそうだ。
心に染み入るような余韻
ある意味でタランティーノの分身でもあるザ・ブライド役は、94年にタランティーノの『パルプ・フィクション』に出演したユマ・サーマン。当時のサーマンは大勢の女優に交じってオーディションを受け、役をつかんだ(アカデミー賞候補にもなった)。以来、タランティーノとは友人同士だ。
実際、「復讐に燃える花嫁」というアイデアは、『パルプ・フィクション』の撮影中に酒を飲みながら2人が交わした会話から生まれたという。10年後、タランティーノはサーマンの誕生日に『キル・ビル』の脚本をプレゼントした。しかし、サーマンの妊娠のために撮影は延期された。
タランティーノによると、延期になったおかげで登場人物の心理をより深く掘り下げることができた。「VOL.2では、観客は女優サーマンに心を揺さぶられるだろう」と、タランティーノは映画雑誌プレミアに語っている。「子供を奪われた母親の心の反撃だ」
前編は「彼女は知っているのか? 娘がまだ生きているということを」というビルの言葉で幕が下りた。VOL.2には、死んだはずの娘と対面するシーンがある。実生活でも母であるサーマンにはやりやすかったという。「殺し屋よりも母親のほうが共感しやすい」からだ。ザ・ブライドの娘は自分の娘マヤがモデルだとも、サーマンは誇らしげにつけ加えた。
ファンが期待するタランティーノならではの「奇妙なキャラクター、サプライズ、こっけいな要素」も健在だ。とはいえ、『VOL.1』と一線を画すのは、心に染み入るような余韻にほかならない。『VOL.1』には、タランティーノがほれ込んでいるヤクザ映画やカンフー映画、マカロニウエスタンを集めて焼き直したにすぎないという批判があった。叙情的な『VOL.2』は、その批判を覆すものだ。
サーマンは前後編の2本とも見て評価してほしいと言う。「クエンティンは1本の映画にすると言い張っていたけど、(質的にも量的にも)2本分の材料は十分にあった。だから1本だけ見たのでは不十分。2本で一つの作品なのだから」
[2004年5月 5日号掲載]