最新記事

ブッシュ政権への甘やかしは禁物

日米関係
属国か対等か

長年の従属外交を脱して
「ノー」といえる関係へ

2009.11.10

ニューストピックス

ブッシュ政権への甘やかしは禁物

譲歩の重要性を理解できないアメリカに対して、日本は同盟国だからこそ毅然とした態度を取るべきだ

2009年11月10日(火)12時35分
スティーブン・ヴォーゲル(カリフォルニア大学バークレー校准教授[政治学])

 昨年9月の同時多発テロで、米ブッシュ政権は貴重な教訓を学んだ。世界で唯一の超大国であっても、一国だけでは物事を成し遂げられないということだ。ただしこの教訓、完全に身についたとは言いがたい。

 確かに身についた部分もある。ブッシュ政権の外交政策チームは、事件後すぐに、対テロ戦争を戦うためには国際的な協調体制を築き上げなければならないことを認識した。また、従来の同盟国以外の国々(とくにイスラム諸国)との関係強化が必要なことも理解した。

 しかし世界が事件のショックから立ち直るにつれ、ブッシュ政権の国際協調に対する姿勢がかなり限定的であることが明らかになってきた。米政府は諸外国と相談することの重要性は理解しているが、妥協の大切さはわかっていないのだ。

 米政府は、世界に貢献するために、小さな国内の利益を犠牲にするのをためらっている。国際機関の強化のために、自国の主権を制限するのも嫌がっている。長期的にみれば国際社会ばかりか、アメリカにとっても害になる態度だ。

単独行動主義にブレーキを

 クリントン政権の国防次官補だったジョセフ・ナイは、『アメリカ権力の逆説』という著書でこの問題を扱っている。

 ナイによれば、アメリカは軍事的にも経済的にも文化的にも、世界一の力を誇る一方で、これまで以上に諸外国からの支援を必要としている。グローバル化とIT(情報技術)革命が権力のあり方そのものを変質させたため、アメリカは軍事力よりも、もっと「ソフト」な力に頼らなければならないというのだ。

 だが、アメリカのジレンマはさらに深い。強大な力をもつがゆえに、世界中の反発を受けているからだ。

 こうした反発に対処するには、アメリカが自らの力を弱める以外に方法はない。つまり、アメリカは国内の利益を犠牲にしてでも、国際社会における公共善を追求する意思を見せなければならない。他の国々と協力し、ときには譲歩する姿勢を示さなければならない。国際機関への権力の移譲も認めなければならない。

 だが、ブッシュ政権はこの点を理解していない。鉄鋼の緊急輸入制限措置(セーフガード)を発動したのがいい例だ。おかげで同盟諸国からは不興を買い、貿易問題におけるアメリカの影響力にも傷がついた。ただでさえもろいWTO(世界貿易機関)体制にも大きなダメージを与えた。

 また、米政府は地球温暖化問題では京都議定書を受け入れようとせず、ABM(弾道弾迎撃ミサイル)制限条約から脱退した。

 こうしたアメリカの態度に、日本はどう対処すべきなのだろう。同盟国だからといって、すべてを黙って受け入れる必要はない。日本はアメリカに「ノー」を言うべきだ。

 日本はヨーロッパと同様に、アメリカの単独行動主義を抑え込む努力をすべきだ。確かに日本は、鉄鋼貿易や温暖化の問題ではアメリカと対立する選択をした。だが図らずも、これまでいかに日本がアメリカに対して従属的だったか、垣間見える場面がいくつかあった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

メキシコ大統領、強制送還移民受け入れの用意 トラン

ビジネス

Temuの中国PDD、第3四半期は売上高と利益が予

ビジネス

10月全国消費者物価(除く生鮮)は前年比+2.3%

ワールド

ノルウェーGDP、第3四半期は前期比+0.5% 予
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中