最新記事

オバマ政権「普天間」外交の危うさ

オブザーヴィング
鳩山政権

話題の日本政治学者
トバイアス・ハリスが現在進行形の
「鳩山革命」を分析する

2009.10.26

ニューストピックス

オバマ政権「普天間」外交の危うさ

鳩山政権に恫喝は通じない。立場を柔軟化させ始めている鳩山のサインをオバマと ゲーツは見逃すべきでない

2009年10月26日(月)15時55分

[2009年10月26日更新]

 普天間問題をめぐり、アメリカのオバマ政権が鳩山政権に対して強い姿勢で臨んでいる。アメリカ政府が求めているのは、沖縄県宜野湾市の米海兵隊普天間飛行場の移設を05年の日米合意どおりに速やかに進めること。この合意では、沖縄県内のキャンプ・シュワブ沿岸部に普天間飛行場の代替施設をつくるものとされている。

 アジア歴訪の一環として日本を訪れたロバート・ゲーツ米国防長官は、鳩山政権に明確なメッセージを送った――在日米軍再編に関する日米合意の再交渉に応じるつもりはない、と。ゲーツは10月21日、北澤俊美防衛相との共同記者会見でこう述べた


 われわれの意見は、はっきりしている。普天間代替施設は、(米軍)再編の工程表の要である。普天間代替施設なしでは、(海兵隊の)グアムへの移転はない。グアム移転なしでは、沖縄の部隊縮小と土地の返還もない。

(日米合意の内容が)完璧な選択肢だとは誰にとっても言えないかもしれないが、すべての当事者にとってそれが最良の選択肢だと、われわれは考えている。前に進むべき時期だ。


 特に後半の発言は、この問題に関する現時点でのアメリカ政府の立場を極めて率直に表している。ただでさえ山ほど問題を抱えているオバマ政権としては、既に合意したはずの問題を再度話し合うことにほとんど関心がないのだ。

 アメリカの立場も分からなくはない。普天間問題は長年にわたり厄介な懸案事項だった。早く結着済みにしてしまいたいのだろう。

鳩山政権に恫喝は通じない

 しかし、アメリカ政府が早く前に進みたいからといって、鳩山政権や沖縄の人々の意向を無視すべきではない。自民党政権時代の日本政府が合意に署名した以上、民主党政権もそれを受け継ぐのが当然だとアメリカ政府が主張するとすれば、あまりにご都合主義だ。

 この夏の総選挙で民主党が政権を奪い、日本政治のすべてを変えようとすることは、アメリカ政府も想定していたはず。日米安保だけはその例外だとでも思っていたのだろうか。

 日米安保体制は、自民党の長期政権をつくり出した「55年体制」の主要な柱の1つだった。アメリカがどう見ているかはともかく、日米安保が自民党政権を下支えしてきたことは否定できない。自民党の長期支配にようやく終止符を打った民主党主導の新政権がこのいわば「自民党とアメリカの同盟」をあっさり受け入れようとしないのは、意外なことでない。

 日本を訪れたゲーツ国防長官が普天間問題で強硬な態度を示した背景には、鳩山政権に圧力を掛けて、日米合意の見直しを断念させようという狙いがあるのかもしれない。

 だが、鳩山政権が簡単に引き下がるとは考えづらい。連立パートナーの社民党は普天間飛行場の沖縄県外への移設を強く主張しているし、民主党内も日米合意に批判的な声が大勢を占めている。沖縄県民や沖縄選出の議員の反発も強い。しかも11月のバラク・オバマ大統領の来日を前に普天間問題への注目が集まる中でこの問題で譲歩すれば、おそらく鳩山政権の支持率に悪影響が出るだろう。

 それだけではない。政治的損得は別にして、そもそも鳩山由紀夫首相と閣僚たちは現在の日米合意の内容を好ましくないと考えており、それを変更したいと本心で思っているらしい。「アメリカに堂々とものを言える」ことをアピールしたいという思いもあるに違いない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中