最新記事

米政府、ファニーとフレディ救済を発表

金融危機クロニクル

リーマンショックから1年、
崩壊の軌跡と真因を検証する

2009.09.10

ニューストピックス

米政府、ファニーとフレディ救済を発表

住宅ローン市場の「最後の砦」が落ち、アメリカはいよいよ大恐慌の様相を呈してきた

2009年9月10日(木)12時09分
ダニエル・グロス(ビジネス担当)

 7月15日と16日の両日、1929~33年大恐慌の研究が専門だった経済学者でFRB(米連邦準備理事会)議長のベン・バーナンキと、より最近の金融危機を生き延びてきたヘンリー・ポールソン米財務長官は、アメリカの金融市場を救うための最新の方策を米議会に訴えた。

 90年代の金融危機に対応したアラン・グリーンスパン前FRB議長やビル・クリントン政権のロバート・ルービン財務長官、ローレンス・サマーズ財務長官らが「世界を救う委員会」として名をはせたとすれば、バーナンキとポールソンは「ウォール街を自滅から救う委員会」として後世に名を残すことになるかもしれない。

 過去数カ月、FRBと財務省は頻発する大火事に徹夜の対応を迫られてきた。最初は、3月に実質破綻したベアー・スターンズ証券。次は、7月11日に業務停止に追い込まれた住宅ローン大手の地方銀行、インディマック・バンコープ。信用度の低い個人向け住宅融資であるサブプライムローンと優良顧客向けのプライムローンの間の「オルトA」という住宅ローンで業務を拡大してきたが、融資の焦げつきや預金の流出で経営に行き詰まった。窓口業務を再開した14日には、早朝から預金を引き出しにきた顧客の長い列ができた。

 極めつきは、経営不安が高まる政府系住宅金融大手、連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)。「実質的な債務超過」という専門家の発言などで株価が急落。万一のことがあれば、金融システム全体の炎上につながりかねない住宅ローン市場「最後の砦」だ。

 両社の主な業務は、銀行などの住宅ローンを買い取って資金を供給すること、さらには買い取った住宅ローンを小口証券化し、元利払いの保証つきで販売すること。両社が保有・保証する住宅ローン担保証券(RMBS)は、アメリカの住宅ローン総額の約半分の5兆2000億ドルにのぼる。「暗黙の政府保証」つき、という理解から米国債並みに信用度が高く、世界の中央銀行も大量に保有している。もし経営が行き詰まれば、世界的な金融不安やドル売りの引き金になりかねない。

自らを火葬に付した金融界

 両社の株価が急落した7月の第2週、市場の関心は、政府が両社を住宅公社として設立した当時に意図していたこと、つまり、彼らの債務を政府として保証することに踏み切るかどうかに集まった。

 バーナンキとポールソンは、ときに敵意をあらわにする議会のメンバーに対し、断固たる口調でイエスと言った。必要ならば、FRBはファニーメイとフレディマックに融資を行い、財務省には両社の株式を買い取り、5兆2000億ドルの債務を保証する権限を与えるという。こうした救済策と、予想をわずかながら上回った銀行決算のおかげで、15日に2年ぶりに1万1000ドルを割ったダウ工業株30種平均も反発した。

 この危機は、1933年に始まったニューディール政策のときのように、政府とウォール街の関係を再構築するきっかけになるのだろうか。それとも、89年に政府が貯蓄貸付組合(S&L)を救済したときのように、一時しのぎで終わるのだろうか。

 今のところ、今回はより33年に近いようにみえる。破綻したインディマックの前に列をなす人々の姿がテレビに映し出されたから、だけではない。それより75年前と似ているのは、当時もビジネス寄りの共和党の大統領が2期続いた後で、金融業界は欲望におぼれ、無能力と過度な楽観主義に陥って、自らを火葬に付したことだ。当初は特定のセクター(当時でいえば株、現在ではサブプライムローン)に限定されていると考えられた問題が、金融システム全体に広がった点も同じだ。

 自信は崩れ落ち、政府は前例のない規模で金融再生に乗り出した。「金融システムのリスクを政府が引き継いだ点で、80年代よりはるかに大きな介入だった」と、破綻したS&Lの清算会社として89年に設立された整理信託公社(RTC)の初代会長だったビル・サイドマンは言う。

金融基盤も作ったニューディール

 ニューディール政策は、アメリカを南北に縦断するアパラチアン・トレイルからフーバー・ダムまで多くの重要な構造物を残したが、金融インフラも同様だ。33年銀行法(グラス・スティーガル法)によって米連邦預金保険公社(FDIC)が創設され、会員の銀行を規制下に置いた。34年の証券取引法は、株式市場の監視機関を発足させた。30年代後半にファニーメイがつくられたのも、沈滞していた住宅ローン市場を活性化させるためだ。「金融システムの抜本的な再構築だった」と、ニューヨーク大学の歴史学者リチャード・シラは言う。

 当時の弱体化した金融業界はこうした新制度に強硬に反対したが、結果は成功だった。「ニューディールによる33~35年の金融システム再生があったからこそ、経済も大恐慌から徐々に回復することができた」と、バーナンキはその著書『大恐慌についての小論集』で書いている。このとき構築された保険、監視、情報開示、それに規制の複合システムは、驚くほど耐久性に富むものだった。設立から75年、FDICは預金者のお金を1セントたりとも失っていない。

 もちろんニューディール時代に始まった金融安定化策もときには崩壊した。34年に設立されS&Lの預金を保証していた連邦貯蓄貸付保険公社(FSLIC)は、80年代の規制緩和が裏目に出てS&Lの経営が悪化すると、その余波で廃止に追い込まれた。このとき、預金保護のために納税者が負担した救済額は1200億ドルにのぼった。

 90年代のITバブルがはじけたときは、政府は大して心配しなかった。しかしサブプライムローン問題に端を発した今回の信用危機は、二つの重要な理由から違う反応を引き起こしている。その二つとは、借金で手持ち資金の何倍もの投資をするレバレッジ運用と、金融機関同士のつながりだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中