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崩れた「おとぎの国」幻想
文明開化まもない日本各地を歩いたイギリス女性
『日本奥地紀行』(Unbeaten Tracks in Japan)を記したバードは、景色や日本人の優しさに感動した
ケンペルやヒュースケンの時代には、日本に西洋の女性は1人もいなかった。江戸から明治へと時代が変わり、最初にやって来た西洋女性の1人がイザベラ・バード(1831~1904)だ。
バードは好奇心旺盛な中年のイギリス女性で、1878年に何カ月もかけて、日本の各地を旅している。召使いの「伊藤」を連れ、あるときは人力車、あるときは馬、あるときは徒歩で、日光から新潟、山形、さらに北海道まで足を延ばしている。
西洋人がなんと言おうと、日本は「おとぎの国ではない」とバードは書いている。夜は宿屋に泊まった。なかにはまともな宿もあったが、多くはひどく粗末だった。夜には蚊やノミに悩まされ、眠るに眠れない。物珍しさに集まってきた人たちが、彼女の眠る部屋の障子に穴を開けることもあった。
田舎の人々の生活環境は過酷で不潔で、清潔にすれば簡単に防げる皮膚や目の病気が目についた。女性が胸をあらわにし、男性がしばしば裸でいることに、最初のうちはショックを受けた。食べ物も口に合わなかった。
だが景色や人々の優しさには感動した。誰もが礼儀正しく、親切だった。車夫たちでさえ、彼女に花をもってきてくれた。
[2005年5月18日号掲載]