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2009.08.07

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赤いメガネに映った姿

ソ連共産党機関紙の東京特派員が高度成長期の日本を描いた大ベストセラー

2009年8月7日(金)12時51分
マシュー・グリーン

『桜の枝――ソ連の鏡に映った日本人』(Vetka Sakury)で、著者は共産主義との対比で日本社会を見つめる

 西洋の国々では、日本の文化を扱った本や映画が数多く発表され、人気を博している。だが意外なことに、日本に関する書物のなかで最もよく売れた作品の一つは、70年代にソ連で出版された『桜の枝』(邦訳・サイマル出版会)だ。

 フセヴォロド・オフチンニコフという、舌をかみそうな名前の無名のジャーナリストが書いたこの作品は、ソ連で700万部を超える大ベストセラーとなった。『さゆり』のアメリカでの販売部数より300万部も多い数字だ。

 当時のソ連はブレジネフ共産党書記長の支配下で経済停滞にあえぎ、一方の日本は近代化の最中にあった。初めて明らかにされた新しい日本の全貌に、ソ連の読者が飛びついたのは理解できる。

 オフチンニコフはソ連共産党の機関紙プラウダの東京特派員で、プラウダの視点は『桜の枝』にも反映されている。日本社会の封建的な上下関係、とくに女性の従属的な役割に著者は批判的だ。

 一方で、他の外国人記者が見過ごしがちな細部にも目を配っている。炭鉱事故で夫を失った女性たちが、ハンガーストライキの最中にも生け花のけいこをしていたというエピソードも紹介されている。

 技術革新のルーツを共産主義に求めようとするのも、いかにもプラウダの記者らしい。日本の近代的な造船技術は、19世紀にロシアの船が漂着したことがきっかけでもたらされたと、著者は主張する。

 オフチンニコフは03年にモスクワのラジオ番組に出演し、こうぼやいた。「西側の人に著書が700万部売れたと言ったら、ヨットや別荘をもつ大金持ちだと思われる。でも私が得た印税の14万ルーブルは、ソ連時代には大金だったが、今ではたかだか48ドル相当にすぎない」

 『桜の枝』がどんな評価を受けたにせよ、著者に優雅な印税生活をもたらさなかったことは確かだ。

[2005年5月18日号掲載]

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