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『マルコヴィッチの穴』
あの名俳優に乗り移れる世にも奇妙な穴の物語
会社勤めを始めた人形使いのクレイグ(右)はある日、オフィスで謎の扉を見つける ©PolyGram Holdings, Inc. All rights reserved.
人形使いのクレイグ(ジョン・キューザック)は生活のため、「7.5階」にある奇妙な会社で働きはじめる(天井は0.5階分の高さなので、従業員は中腰で歩くしかない)。ある日、クレイグはオフィスで謎の扉を見つける。扉の向こうはトンネルで、その先は......俳優ジョン・マルコヴィッチの頭の中だった。
クレイグはマルコヴィッチに乗り移るスリルを味わい、15分後に外へ放り出される。商魂たくましい同僚のマキシンは、この扉で儲けようと考える。200ドルで15分間、あなたもマルコヴィッチに!
チャーリー・カウフマンの想像力ほとばしる脚本を、スパイク・ジョーンズ監督は極上のシュールな喜劇に仕上げた。きてれつな脚本を派手に色づけせず、控えめに徹した演出が冴える。物語は奇怪なひねりを連発しながら疾走する。
マキシンがマルコヴィッチを誘惑すると、彼女に恋するクレイグはマルコヴィッチに乗り移ろうと脳に飛び込む。だがクレイグの妻ロッテ(キャメロン・ディアス)も負けじと脳に潜入。さらに自分がもてあそばれていると気づいたマルコヴィッチもトンネルへ......。
お世辞にもクールとはいえない形で自分を演じるマルコヴィッチだが、「さあ寝室へ」とおなじみの無表情な顔で流し目を送る彼は、この役のために生まれてきたようだ。なぜここまでオリジナルな映画ができたのか見当もつかないが、映画界が一時でも常軌を逸したことを神に感謝する。
[2000年9月20日号掲載]