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外国人作家が愛した
日本
旅行記からSFまで――新視点で
読む 知られざるこの国の形
素晴らしきJAPAN本の世界
外国人作家がとらえた「日本人の知らない日本」とは
(左から)『さゆり』(Memoirs of a Geisha)、『ライジング・サン』(Rising Sun)、『浮世の画家』(An Artist of the Floating World)
日本を描いた外国の本は、目の見えない男たちがゾウの体を手で探っているようなものかもしれない。ある男はザラついた脇腹に触れる。別の男はしなやかなしっぽをつかみ、また別の男は鋭い牙に触り......。その結果、それぞれがまったく異なるゾウのイメージをいだくことになる。
それと同じように、100年以上前から多くの外国人作家が日本のさまざまな面に目を向け、独自の視点からこの国の魅力を語ってきた。スポーツの分野に鋭く切り込んだ『和をもって日本となす』(邦訳・角川文庫)のロバート・ホワイティングもその一人。ほかにも戦争やビジネスから、テクノロジー、天皇制、建築まで、ありとあらゆる切り口の日本論が外国人の手で生み出されてきた。
それぞれの本が少しずつ、日本という複雑で矛盾だらけのゾウに対する理解を深めてくれる。
日本をテーマにした小説が提示するイメージのなかには、時代を超えて受け継がれるものもある。日本が外国に門戸を開いた19世紀後半は、「ジャポニスム」が欧米を席巻した時代だった。
フランス人作家ピーエル・ロティは小説『お菊さん』を発表。それをアメリカ人のジョン・ルーサー・ロングが雑誌向けに脚色した作品は、プッチーニの有名なオペラ『蝶々夫人』の原作になった。
物語の題材として「ゲイシャの世界」に引かれる作家は現代にもいる。97年に出版されたアーサー・ゴールデンの『さゆり』(文春文庫)はアメリカだけで400万部のセールスを記録。年内には『さゆり』を原作にしたハリウッド映画も公開される。
経済成長で注目の的に
『さゆり』は1930年代の京都を舞台に、気丈な新人芸妓さゆりがいじめにあいながらも、売れっ子に成長する姿を描き、一般読者と批評家の心をつかんだ。「きわめて閉鎖的で、異質な世界がこれほど自然な説得力をもつことはまれだ」と、ニューヨーカー誌は絶賛している。
小説のテーマは時間を超越するが、創作の動機や世間の評価は特定の時代背景と切っても切れない関係にある。第二次大戦終結から20年もすると、欧米では日本に対する新たな関心が高まった。敗戦を乗り越えて奇跡的な経済成長をなし遂げた日本を見て、誰もがその「秘密」を知りたがったのだ。
75年に発表されたジェームズ・クラベルの『将軍』(阪急コミュニケーションズ)は、まさに時流に乗った作品だった。戦国末期を舞台に「サムライ魂」を深く掘り下げたこの作品の魅力を、批評家はこぞって賞賛した。
「(クラベルは)未知の世界へ読者を連れだし、刺激と知識と疑問をほぼ同時に提示する」と、ニューヨーク・タイムズ・ブック・レビュー紙は論じている。
16世紀末の日本に漂着した実在のイギリス人航海士をモデルにした『将軍』は、卓越したプロットと語り口を武器に、1000ページを超える長編ながら全世界で1500万人以上の読者を獲得。80年に製作されたテレビシリーズは1億2000万人が見た。当時のニューズウィークは、その影響で「ショーグン・ブーム」が巻き起こったと伝えている。「バーでは酒が売り切れ、ブティックでは着物が飛ぶように売れている」
クラベルは東洋文化を欧米に伝えようと、封建時代の身分制から旧暦、三味線の形まで細かく説明している。だが、重要なのは主人公ブラックソーンの精神的な成長だ。最初のうちは風呂やおじぎといった生活習慣に疑問をいだくが、しだいに日本独特の「名誉と道徳」の精神を理解していく。
初めて切腹を目の当たりにして、ブラックソーンは自問する。「こいつらは何者だ? これは勇気か、それとも狂気か?」。それでも、数百ページ後に愛する女が自刃する姿を見たときには、そこまでしなければならないことに深い嫌悪を覚えながら、「理解し、敬意すらいだいた」。
92年には、もっとシニカルな視点で日本を描いた作品が登場した。ベストセラー作家マイケル・クライトンの『ライジング・サン』(ハヤカワ文庫)は、日本のバブル経済絶頂期を背景にした犯罪サスペンスだ。
日本企業がアメリカの製造業を衰退に追いやり、不動産を買いあさっていた時期を舞台にしたこの本のメッセージは、ずばり「日本人を警戒せよ」。作者にとっては、こちらを強調するほうがストーリーよりずっと重要だったらしい。
無気味なほど異質な日本人の姿と奇妙な性的趣味、予測しがたい行動、そしてビジネスに対する貪欲な姿勢――『ライジング・サン』のどのぺージを開いても、こうした日本観が支配している。