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北朝鮮 危機の深層
核とミサイルで世界を脅かす
金正日政権
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骨抜き制裁の愚を繰り返すな
北朝鮮のミサイル実験を止めることができるのは全面制裁だけだ
08年9月、北朝鮮を写した衛星写真が中国国境近くで建設中の大規模なミサイル発射施設をとらえた。そして現在、アメリカ西海岸まで届く長距離弾道ミサイルの発射実験を北朝鮮が行うのではないかという憶測が流れている。
韓国の情報当局は発射施設が8割がた完成していると推測しており、米当局も北朝鮮が推進力実験も含めたテストの準備を進めているとみている。1月30日には北朝鮮が韓国との対決状態解消のための合意を無効にすると宣言し、韓国軍が警戒レベルを高めたばかりだった。
北朝鮮専門家は、韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領が「太陽政策」を放棄したことや、北朝鮮の制度改革を経済援助の条件としていることへの反発と推測。またアメリカのバラク・オバマ政権への牽制という見方や北朝鮮国内の権力闘争、あるいはイラン、シリア、リビアなど武器輸出相手国向けの「試験発射」説もある。
制裁に協力しないあの国
おそらく北朝鮮当局はいずれも否定するだろう。98年にはミサイル発射実験を「金正日(キム・ジョンイル)将軍の歌」を流す人工衛星の打ち上げだと言い張った国だ。
いずれにせよオバマ大統領は困難な立場に立たされる。アメリカの敵対勢力とも交渉に応じると公言したため、相手からの挑発にも対応せざるをえないからだ。結果として、米政府は「国連への回帰」を選択することになるだろう。
だが一つ問題がある。オバマは選挙中、もし北朝鮮が国際的な約束を破れば「エネルギー援助を中断し、新たな制裁を検討する」と公約したが、国連がこれまで北朝鮮に科した制裁は効果がなかった。
06年7月のミサイル実験後、国連安全保障理事会はすべての弾道ミサイルの開発計画を停止し、早期に発射実験の再凍結を宣言するよう北朝鮮に要求した。国連は限定的な経済制裁を科し、06年10月の核実験以降は兵器や贅沢品にまで制裁対象を拡大した。
しかしこうした制裁も北朝鮮の姿勢を変えられなかった。制裁が真摯に実行されなかったことがおそらくその原因だ。以前に北朝鮮から武器を購入していたイランやエチオピアは、国連への報告書の提出を拒否した。
国連決議では贅沢品の定義や輸出禁止の執行を個々の国の判断に任せていたが、ロシアは2000ドル以下の腕時計と1万ドル以下の毛皮のコートをリストから除外。北朝鮮の最大の貿易相手国である中国は、輸出禁止品目のリスト公表すら拒絶した。ベンツやヘネシーを配ることで部下の忠誠を買っている金正日総書記にとっては、まったく都合のいい話だ。
アメリカにとって幸運なことに、北朝鮮がいまミサイル実験を行えば主要国の協力を得るのはそれほどむずかしくない。韓国の李政権は北朝鮮に対する強硬姿勢を打ち出しているし、我慢の限界に達しつつある中国も制裁に前向きだ。両国とも本当に北朝鮮を追い詰める規制を支持するだろう。
資産凍結が妥協を呼んだ
北朝鮮は石油や食糧、必須医薬品の大半を外国に頼っている。03年に中国が石油支援を一時的に止めると、北朝鮮はすぐ交渉の席に戻った。
ほかにも効果が出た方法はある。05年に米財務省がマカオの小さな銀行にあった資産(ミサイルなどの売り上げのほか金正日の闇資金も含まれていた可能性がある)を凍結すると、北朝鮮通貨の地下市場での価値は暴落し、合法的な商業活動が壊滅。金正日の誕生祝賀会も縮小を迫られた。北朝鮮政府はこれに応え、すぐに寧辺の核施設を閉鎖し、国際原子力機関(IAEA)の査察を受け入れた。
つまり実効性のない制裁を科しても意味はないが、打開策はあるのだ。主要国が事前に、新たなミサイル実験が全面的な輸出規制と金融制裁、エネルギー供給の停止を招くとはっきり警告すればいい。骨抜き制裁の失敗から学ばなければならない。
(筆者は北朝鮮経済の専門家で、『金正日後の朝鮮』などの著者)
[2009年2月25日号掲載]